全 情 報

ID番号 06819
事件名 建物明渡等請求事件/地位確認等請求事件
いわゆる事件名 財団法人雇用振興協会事件
争点
事案概要  宿舎の管理をめぐって再三にわたって居住者とのトラブルを引き起こした管理人が解雇され、解雇後も居住を続けている管理人室からの退去を求められ、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 寄宿舎・社宅(民事) / 寄宿舎・社宅の利用 / 被解雇者・退職者の退去義務・退寮処分
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇事由 / 名誉・信用失墜
裁判年月日 1996年6月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 21638 
平成6年 (ワ) 2627 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例697号21頁/労経速報1608号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇事由-名誉・信用失墜〕
 一1 原告の職員就業規則五条は、原告職員の禁止行為として、(一号)「協会の信用を失墜し、又は名誉をき損すること」、(二号)「協会の利益を害し、又は損失を及ぼすこと」、(三号)「業務上知り得た秘密を漏らすこと」、(四号)「協会の職場の秩序又は規律をみだすこと」を掲げ、同就業規則二八条一項は、原告職員の解雇事由として、(一号)「勤務実績が著しくよくないとき」、(三号)「第五条に違反したとき」、(四号)「前三号に掲げる場合のほか、協会の業務を行うため必要な適格性を欠くとき」を規定している(〈証拠略〉)。
 2 本件解雇の意思表示は、右解雇事由のうち、同就業規則二八条一項一号、三号及び四号を理由になされたものであるが、前記認定事実に従えば、被告には、右解雇事由に該当する行為が全部存在すると認められる。とりわけ、被告が、小川宿舎勤務当時においては、私怨により、A自治会長、B入居者、C入居者らに対して不当な誹謗中傷を繰り重ね、これに伴って小川宿舎の自治会運営にも不当に介入し、駐車場の関係等でも他の入居者らとトラブルを頻発させ、その結果、入居者の大部分の者から異動の請願書が提出されるに至って西郷宿舎への転勤のやむなきに至り、また、西郷宿舎へ転勤後においても、被告が転勤直前に原告から正式文書によって厳重注意処分を受け、今後管理主事として注意すべき事項を子細かつ具体的に指示された身でありながら、何ら反省することなく、独善的かつ高圧的な態度を維持し、入居者に対して退去を強要し、入居者の秘密を暴露し、入居者の名誉を毀損する行為や不快感をもたらすような行為に及び、この間、原告の東京支所長らからの指導と注意にも従わず、横柄な態度に終始し、あまつさえ、著明な政治家やD弁護士の名を勝手に挙げて原告東京支所長及び職員や西郷宿舎の居住者等を威圧しようとした点は、公的な機関としての原告の職員としてあるまじき態度であって、これらの事情は、端的に原告主張のとおりの解雇事由の存在を示すものである。
 3 また、被告の西郷宿舎への配置換えは、小川宿舎における被告の言動等に鑑みると、破格とも言うべき極めて温情的な処置であったと評価すべきであるが、それにもかかわらず、被告が西郷宿舎においても小川宿舎におけるのと同様の暴言等を繰り返していた点を評価すると、原告が本件解雇の正当事由として主張する不明瞭な電話代支出の事実及び勤務日誌の不記載等の各事情につき判断するまでもなく、被告に対する本件解雇は、全く正当なものであって、何ら解雇権の濫用に該当するところのないものであることが明らかであり、かつ、原告が本件解雇を解雇権の濫用であるとして主張する各事情を裏付ける証拠はない。そして、本件解雇の解雇手続それ自体についても、特段の違法は認められない。〔中略〕
 本件解雇は適法かつ有効であり、被告は、本件解雇によって、原告の職員たる地位を失ったものであると判断する。
〔寄宿舎・社宅-寄宿舎・社宅の利用-被解雇者の退去義務・退寮処分〕
 本件建物の貸借契約が右のような被告の管理主事という特殊業務の遂行上必要なものとして認められるものである以上、被告が西郷宿舎の管理主事としての地位を失えば、使用契約の目的を達したものとして、本件建物の使用契約は、当然に終了する。
 2 ところで、被告は、本件解雇によって西郷宿舎の管理主事たる地位を失ったのであるから、本件解雇の効力発生と同時に原告と被告との間の本件建物の使用契約関係も終了することになるが、その結果、被告は、原告に対し、本件建物を返還すべき義務を負い、かつ、返還未了の間、損害が生ずれば、原告に対して、その損害を賠償すべき義務を負うことになる。
 3 被告は、本件解雇を無効であるとして争い、本件家屋に居住しているが、本件解雇が適法・有効である以上、被告の本件家屋の居住は不法占有であり、特段の事情のない限り、この不法占有によって、原告は、一定の損害を被っていると認めるべきである。