全 情 報

ID番号 06820
事件名 建物明渡し・損害賠償請求事件
いわゆる事件名 国鉄清算事業団(横浜人活センター)事件
争点
事案概要  国鉄の人材活用センターに配属された国労の組合員である労働者が、指定の詰所への移動をめぐって小ぜりあいがあった際に助役ら管理職に暴行を加えたとして懲戒免職処分を受けたことを理由に社宅の明渡しが求められた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
日本国有鉄道法31条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
寄宿舎・社宅(民事) / 寄宿舎・社宅の利用 / 被解雇者・退職者の退去義務・退寮処分
裁判年月日 1996年6月25日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 2372 
裁判結果 棄却
出典 労働判例703号48頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔寄宿舎・社宅-寄宿舎・社宅の利用-被解雇者の退去義務・退寮処分〕
 一般的に、いわゆる社宅は職員のための福利厚生施設であるといわれるが、国鉄宿舎の場合も、宿舎は国鉄職員等と主としてその収入により生計を維持する者の居住に当てられること、職員等でなくなった場合や死亡した場合を終了事由として規定していること、使用料を徴収しているとはいえ、現今の住宅事情や家賃金額の実情等に照らし、本件各宿舎と同様の立地条件、構造、規模、設備を有する建物を一般市場において賃借する場合の賃料に比べれば明らかに低廉なものであって宿舎利用の対価とは考えにくいこと等の事情(中略)から明らかなとおり、国鉄職員のための福利厚生施設であるということができる。
 しかし、社宅なるものが、もともと労働力確保の手段として生まれたものであり、職員の職住を可能な限り接近させて労働力の効率的な使用をはかるという機能も果たすと認められること、社宅非居住職員に対しては住居手当が支給される反面、社宅入居者に対してはこれが支給されないのが一般的であることを考慮すると、現物給付としての性格をもつものということも可能な場合もあると考えられ、単に、社宅が使用者から恩恵的な意味で供与されるものということもできない。
 したがって、国鉄職員は、職員としての身分があるからといって当然に宿舎への居住を求める権利があるわけではないが、その反面、国鉄が、恣意的に、宿舎利用関係を終了させたりすることは、宿舎が当該職員及びその家族の生活の本拠とされていること及び当該職員の社会的経済的地位を考慮すると、これを許すべきではない。
 以上のような観点から検討すると、宿舎に居住する職員は、宿舎利用関係の終了原因を規定する同規程一六条一ないし四号に該当する場合を除いては、その意に反してその利用関係を終了させられることはないというべきである。〔中略〕
本件訴訟は、被告らは国鉄から基準規程に基づく指定により宿舎(中略)に居住していたが、国鉄は被告らが懲戒免職処分により国鉄の「職員等でなくなった」ことから被告らに対してその明渡請求権を取得したところ、原告は右明渡請求権を承継したと主張して、原告が被告らに右各宿舎の明渡を求めるものである。したがって、原告は、本件訴訟において、被告らが国鉄の「職員等でなくなった場合」に当たることを立証すべきこととなる。そして、原告は、被告らが国鉄の「職員等でなくなった場合」に当たる理由として、被告らがそれぞれ本件の懲戒免職処分を受けたことを主張しているのであるから、原告主張の被告らに対する本件各処分が被告らの国鉄職員としての地位を失わせる法的効果を生ずるものか否かの判断は不可欠である。以上の観点から本件についてみるに、Aは昭和四一年一〇月一日職員として採用されて以来、Bは昭和四五年一〇月一日職員として採用されて以来、いずれも本件各処分に至るまで長期にわたり国鉄職員としての安定した地位にあったことが認められる(証拠略)上に、〔中略〕被告らが本件各処分に先き立ち、懲戒免職処分の禁止を求める仮処分の申立てをし、本件各処分の理由となったC助役に対する本件各暴行の存否が争点となったが、国鉄はその係属中に被告らに対して本件各処分をしたこと、そのため被告らは、申立ての趣旨を地位保全と賃金仮払を求める趣旨に改め、横浜地方裁判所が国鉄による本件各処分はその処分事由を欠き無効であると判断して賃金仮払を命じる判決を言い渡し、右判決は控訴棄却により確定したことが認められる本件においては、国鉄が諸規定に定める手続に基づいて職員としての身分を失わせる措置を執ったこと、すなわち、原告が被告両名に対し、懲戒免職処分を発令したことのみによっては、被告らが国鉄の「職員等でなくなった場合」に当たるということはできず、併せて本件各処分が実体上及び手続上の要件を具備する有効なものであることをも要すると解するのが相当である。
 (3) 基準規程一六条四号の趣旨について
(中略)宿舎本来の目的に添った運営の円滑化を図るためには、一旦居住を指定された職員でも、その後の事情の変化によっては、引き続き居住させておくことが相当でないこともあるのであって、そのような場合には局所長の相当な裁量的判断により、当該職員の宿舎利用関係を終了させることができるものと解するのが相当であり、基準規程一六条四号が「局所長において、居住することを不適当と認めた場合」に宿舎利用関係を終了させることができる旨定めた趣旨は、そのような裁量判断を局所長に委ねることにあるというべきである。しかしながら、その裁量判断が合理的かつ相当でなければならないことはいうまでもないのであって、その判断が合理性又は相当性を欠き、若しくは恣意的なものである場合には、当該局所長の認定判断とこれに基づく明渡通知は、宿舎利用関係を終了させる効果を生じさせるものではないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、国鉄の本件各宿舎の管理責任者である南局総務部長は、懲戒免職処分が発令された被告らは、以後国鉄職員として国鉄業務に従事しないことを理由として、被告らを本件宿舎に居住させることを不適当と認め、昭和六二年二月二四日付けで被告らに対する取扱規程一〇条所定の宿舎明渡通知書を作成して、これを被告らに通知する措置をとったことが認められる(証拠・人証略)のであるが、南局総務部長が被告らを本件各宿舎に「居住することを不適当と認めた」理由は、被告らが本件各処分を受けて「職員等でなくなった場合」に当たり、国鉄業務に従事することが全くなくなったと判断されたことによるものであることは明らかである。しかしながら、被告らに対する本件各処分がなされただけで、被告らが「職員等でなくなった場合」に当たるといえないことは先に説示したとおりであり、被告らが国鉄業務に従事することが全くなくなったのは、国鉄が本件各処分を前提として被告らの国鉄職員としての地位を否認しているからにほかならない。したがって、本件各処分が実体上及び手続上の要件を具備する有効なものである場合に、はじめて南局総務部長の右の判断が合理的かつ相当であるということができるのであって、そうでない限り、これにより被告らの本件各宿舎の利用関係が終了することはない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 原告は、原告主張の被告らの本件各暴行は、管理者の業務命令に従わず意のままに職場秩序を支配しようとする被告らに対し、管理者が正当な業務上の指示に従わせようとしたのに対して、被告らが主導的に公然とその管理者に集団で暴力行為に及んだものであり、多数の職員を擁して経営の合理化施策、職場規律の厳正施策に取り組んでいた当時の国鉄における職場規律の確保の観点から看過できない極めて悪質な事案であると主張する。しかし、原告は右の三日間の経緯を重視するものの、結局は、本件各処分の理由とされた本件各暴行以外の一連の行為を本件各処分の理由として主張するものではなく、そうであれば、本件各処分の理由とされた本件各暴行の存在が認められない以上、本件各処分は、その処分事由を欠き、無効といわざるをえない。