ID番号 | : | 06824 |
事件名 | : | 退職金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 佐世保重工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 取締役人事について、管理職らが経営陣の失権を目的に行ったことを理由とする懲戒解雇につき、企業秩序を乱すものとして有効とした事例。 懲戒解雇手続につき、処理運用要領に従って処分がなされており、手続に不備はないとした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経営権介入 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1996年7月2日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成3年 (ワ) 4838 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例698号11頁/労経速報1602号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経営権介入〕 一 懲戒解雇事由 1 前記第二の一「基礎となる事実関係」によれば、被告主張の本件懲戒解雇事由の内、認定できる事実は次のとおりである。 (一) 原告X1 原告X1は、A会社業務部長の職にあったが、「嘆願書」、「連判質問状」に署名したばかりか、「趣意書」の作成に主導的立場で関与した。また、原告X1は、B常務の指示を守らないで「公開質問状」等の回収をせずに、いったん回収した右文書を返還したり、平成元年六月二八日及び同月三〇日には業務部長の立場を利用し、自宅待機を命じられていたCのために管理職らを召集して朝会を開催し、CにD社長を批判し、自分は必ず復帰するとの演説をさせた。また、原告X1は、「E」に少なくとも三回は出席した。 (二) 原告X2 原告X2は、F株式会社出向兼事業開発室グループ主任部員の職にあったが、「嘆願書」に署名し、「趣意書」に趣意書起草発起人として署名した。また、原告X2はスナック「E」に少なくとも三回は出席した。 (三) 原告X3 原告X3は、鉄構統括部主任部員兼G株式会社出向の職にあったが、「嘆願書」、「連判質問状」に署名し、「趣意書」に趣意書起草発起人として署名した。また、原告X3は「E」に少なくとも一回は出席した。 2 ところで、前記第二の一「基礎となる事実関係」からすれば、原告らは、昭和六三年にD氏が被告代表取締役に就任することが決まった以後、Hの復権を嫌い、これを阻止しようとして他の管理職らとともに「嘆願書」を作成したが、それにもかかわらず、D社長の信頼を得てHが要職に就くと、平成元年六月以降は、D社長及びHの失権を企図し、自己の復権を画策して右翼暴力団とまで共謀していたCを支持し、これを支援するために、「連判質問状」(原告X2を除く)・「趣意書」を作成し、「E」での会合に参加したものである。このような原告らの右一連の行動は、被告の経営人事権に不当に介入し、その経営権を侵害するものであって、従業員である原告らに許されるべきものではない。 特に、「趣意書」は、D社長及びHら当時の被告経営陣を失権させる目的で、反H派の結束を固めるために作成され、署名者らが結束して戦略・戦術の企画立案を行うことを明記し、また、このことによって被告から解雇されることをも予測しながら、あえてHらの復活を阻止することを誓う内容であり、「趣意書」がその支持の証としてCに渡されたことからしても、企業秩序に反する社会的相当性を欠く行為であるということができる。 さらに、原告らが支持したCやIらによる怪文書事件、背任事件等の数々の違法・不正な行為により被告が有形無形の損害を被ったことや原告らが重要な職責を有する幹部社員であるにもかかわらず、右一連の行動に出たことも合わせ考えると、右1認定の原告らの行動は、被告の就業規則六九条七号、一四号、一五号に該当し、懲戒解雇事由にあたることは明かである。 原告らは、Hが過去に不正行為を重ねていたので、Hの復権に反対し、被告を明るい職場にしようとして「趣意書」に署名捺印した旨述べる(〈証拠・人証略〉)。また、原告らがCらの特別背任等の犯罪行為についてまで具体的に知っていたと認めるに足りる証拠はない。しかし、他方、Hが不正行為をしていたと認めるに足りる証拠はなく、D社長がHへの疑惑は事実無根であると再三説明しているにもかかわらず、原告らは、不正伝票事件に関与していた管理職らと共に、右翼暴力団とまで結託していたCの方を支持したものであって、その行為の態様も会社経営者に正当なルートを通じて進言するというようなものではなく、会社秩序に反し、原告らの行為について情状酌量の余地はない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 二 解雇手続について 原告らは、本件懲戒解雇にあたって、原告らに対する事情聴取がなされなかったり不充分であったから解雇手続に不備がある旨主張するが、被告においては、「賞罰委員会の設置ならびに表彰・懲罰案件の付議など処理運用要領」で「案件審議上必要な場合は所属長・本人・その他の関係者を委員会に出席させ事情を聴取しまたは意見を述べさせることができる。」と規定されている(〈証拠略〉)にとどまり、被懲戒者の事情聴取や意見陳述は懲戒解雇の要件とされておらず(〈証拠・人証略〉)、被告は右処理運用要領に則って、本件懲戒解雇を実施しており、本件懲戒解雇手続に不備は認められない。 |