ID番号 | : | 06836 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | ロイヤル・インシュアランス・パブック・リミテッド・カンパニー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 就業規則における解雇同意条項を履践することなく整理解雇をしたことにつき、右条項に違反し無効とした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件 |
裁判年月日 | : | 1996年7月31日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成8年 (ヨ) 2107 |
裁判結果 | : | 認容,一部却下 |
出典 | : | 労働民例集47巻4号342頁/時報1584号142頁/労働判例712号85頁/労経速報1610号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕 (2) 右の事情を前提に考えると、同規程二条(5)において、解雇の手続要件として従業員組合の了承が規定されているのは、債務者の従業員が、経営者側の一方的な事情によって解雇されることを一定限度で制限しようとする趣旨であると解すべきである。 そして、本件債権者らが平成七年一一月の新体制への移行に伴い部長職を解かれたことは当事者間に争いがないのであるから、その結果、債権者らがいずれも従前の管理職としての地位を喪失して一般の従業員と全く同等の法的地位を有するに至ったことが明かである。 そうである以上、債権者らに対する本件解雇についても、同規程二条(5)が適用されることになり、したがって、解雇のための手続要件である債務者の従業員の組合の「了承」という事実の存在が疎明されない限り、本件解雇は、無効であるが、本件全疎明資料を精査してもなお、本件解雇に際して、右了承があったことの疎明があると言うことはできない。 (3) この点につき、債務者は、疎明資料として、A労働組合執行委員長Bから債務者宛の平成七年一〇月三一日付回答書(疎乙第一七号証)を提出し、同回答書には「新組織への移行に付了承いたします。」との記載があることが疎明されるが、この記載からは、組織改革に伴うポストの変動等に対する了承があったことまでは推測可能ではあるものの、このポストの変動による個別具体的な人員削減に対する了承があったものと解することはできない。 債務者は、右のような了承であっても、新組織の変動に伴い人員削減があることは当然に予想可能であるから、個別具体的な解雇等についても従業員組合から了承があったと考えるべきである旨を主張するようである。しかし、債務者の「退職および解雇規程」二条(5)は、従業員の側に何ら解雇事由がなくても経営者側の一方的な経営上の都合によって従業員を解雇をする場合の歯止めとしての解雇制限基準を定める趣旨の規定であると解するのが経営者側及び従業員側双方の公平に適っていることは明白であるから、債務者が主張するような曖昧な了承で足りるとするとの見解は、到底採用し難いものである。 他方、債務者は、債務者らが新体制移行当時における多数組合であったA労働組合の組合員ではなく、管理職であったことから、「退職および解雇規程」二条(5)に規定する組合の了承は必要ではない旨を主張するようでもあるが、債権者らが部長職を解かれ、一般従業員と全く同じ地位を有するに至ったのであり、たとえ元管理職であったとしても、他の一般従業員と同等に就業規則の解雇制限による保護を与えられるべき立場に立たされたのである以上、右債務者の主張も合理的なものであると解することはできない。 なお、審訊の全趣旨によれば、本件解雇当時において債権者らが所属していたユニオンは、債権者らを解雇することを明確に拒否し、債権者らに対する債務者の処遇をめぐって、債務者と団体交渉を重ねていたことが疎明される。 (4) すると、その余の事実の疎明の有無につき判断するまでもなく、債務者の主位的主張である就業規則「退職および解雇規程」二条(5)に基づく解雇の主張は、失当である。 2 整理解雇の主張について (1) 債務者は、予備的主張として、本件解雇が整理解雇である旨を主張する。 しかし、整理解雇の法的本質は、普通解雇であり、ただ、それが会社の倒産とか特定の非採算部門の整理その他の特殊な事情ないし状況の下になされる解雇であることから、その解雇の正当性の判断あるいは解雇権の濫用の判断等において、その判断要素として、通常の解雇の判断に一般に必要とされる諸事情に付加して、整理解雇に特有の諸事情を綜合考慮しなければならなくなることがあり得るのに過ぎず、まして、法律上、整理解雇が独立した解雇事由となることはないし、また、整理解雇に固有の法律要件が確定的なものとして存在するわけでもない(いわゆる整理解雇における整理解雇の必要性とか解雇避止義務の履行等の諸事情は、そのような意味での付加的な事情の一つであると解するべきであり、整理解雇の主張がある場合において、それらの事情の全てを常に判断対象とすべき論理的な必然性は全くなく、事案によって、判断に必要な要素が異なるのは当然である。)。 したがって、就業規則による解雇制限がある場合には、整理解雇においてもまた、一般的に承認されている解釈に従い、原則として、その就業規則による解雇制限が機能するものと解釈すべきである。 (2) ところで、本件では、債務者の就業規則「退職および解雇規程」二条(5)に経営上の理由による解雇の場合が解雇事由として列挙されており、この経営上の理由による解雇の概念にいわゆる整理解雇の場合が完全に包含されることは、同規程の文言解釈のみでも明らかである。そして、前記のとおりの同規程の変遷等の事情に鑑みると、債務者が整理解雇として債権者らを解雇しようとする場合には、同規程に定める手続要件を履践することが不可能であるか又は同規程に定める手続要件の履践を求めることが却って債権者らにとって酷な結果を招来してしまうというような極めて特殊な事情が存在するなどの特段の事情がない限り、同規程に定める手続要件を充足する必要があることは、整理解雇以外の普通解雇として債権者らを解雇しようとする場合と全く異なることがないと解すべきである。 |