全 情 報

ID番号 06838
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ミリオン運輸事件
争点
事案概要  寝過ごしにより延着事故を起こしたトラック運転手が、右事故を理由に解雇されたのに対して、会社の右解雇は右労働者の組合加入(A分会)を理由とする不利益取扱いの不当労働行為であるとして争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働組合法7条1号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1996年7月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 9569 
裁判結果 認容,一部棄却
出典 労働判例702号38頁/労経速報1613号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 原告の解雇事由とされている本件事故は、前記認定のとおり、必ずしも重大なものとまでいうことはできず、右事故によって被告会社に生じた損害も、摂津支店・福山本社間の路線便を解除された他にはみるべきものが認められないこと、B会社による原告の出入り禁止処分の存在にも疑問が残ること、原告がかつてC会社の路線便に乗務していた当時に延着事故を起こした際には、被告会社は原告に対して特段の処分を行っていないばかりか、その後原告を内勤の係長に昇進させていること、本件組合員であったDに対する解雇予告通知、同人の本件組合脱退、解雇予告通知の撤回がごく短期間内に行われており、原告に対する本件解雇予告通知と時間的にも近接すること、本件解雇予告通知の当時、本件分会員で、被告会社の業務に実際に従事していたものは原告一人であったこと、本件解雇予告通知がなされたのは本件組合による春闘統一要求書が原告を通じて提出された直後であること、右解雇予告通知を行う際の被告代表者Eの前記認定の発言内容、本件解雇予告通知の前後になされた、被告会社運行課長Fの、本件組合脱退に向けた前記認定の説得活動、原告の平成六年二月分の給与支給は本件解雇予告通知の直後であり、かつ、その減額内容に合理性が認められないこと、本件解雇予告通知後に原告がペンキ塗りなどの雑役手に配置転換され、本来の運送業務を取り上げられたことに照らすと、被告会社の、原告に対する本件解雇、平成六年二、三月分の給与減額及び本件配置転換は、いずれも、原告が本件組合に加盟し、積極的に活動をしていることを理由としてなされたものと推認するのが相当であり、労組法七条一号所定の不当労働行為に該当するものというべきである。
 3 したがって、被告会社の原告に対する、本件解雇、平成六年二、三月分の給与減額及び本件配置転換は、いずれも労組法七条一号に反するものとして無効である。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 右認定のとおり、本件事故は、午前中必着との指示を受けたG会社宛の荷物を、午後一時三〇分ころに配達するという内容の延着事故であって、これによって、摂津支店・福山本社間の路線便が解除されたという事実は認められるにせよ、原告が終局的に被告会社がB会社から請け負っていた路線便等に乗務できなくなったとまでは認められないこと、原告がC会社の路線便を降りたのは内勤の係長となったためであって、同社に対する延着事故のためではないと考えるのが自然であること、平成六年三月八日及び同月九日のFの原告に対する前記認定の発言内容からは、B会社以外の会社からも被告会社において一〇トン車の路線便を獲得する余地があったことが窺えることから、本件事故により、原告に雇用契約上の債務を履行できなくなった旨の被告会社の主張はその理由を欠くものというべきである。
 3 したがって、被告会社による本件解雇は、被告会社主張の解雇理由を欠くということができ、本件解雇は効力を有しないものというべきである。
 なお、本件事故により、被告会社において原告に対し雇用契約上の債務を履行できなくなったか否かを離れ、仮に、専ら、原告により本件事故の発生及びこれがもたらした被告会社に対する影響等に着目して、これを理由とする解雇の相当性の有無を判断するとしても、前記認定のとおり、本件事故による延着の程度は必ずしも大きいものではないこと、本件事故のもたらした影響の程度、内容は、前記認定のとおり、摂津支店・福山本社間の路線便が解除されたというに止まること、もとより、それ自体、必ずしも、軽微な損害とのみ評することはできないものであるが、本件解雇に至るまでの経緯等によれば、被告会社において、仮に、原告に本件組合加入及び積極的な組合活動の事実がないとき、被告会社が原告に対し本件事故の発生及びその影響のみを理由として、解雇までしたか疑わしいことに鑑みるとき、被告会社が原告に対し、本件事故を理由として、解雇をもって処するのは重きに過ぎるというべきであって、結局、本件解雇は、社会通念上相当性を欠き、解雇権の濫用に当たり無効というべきである。