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ID番号 06840
事件名 賃金仮払及び就労差別禁止仮処分申請事件
いわゆる事件名 庚申トラフィック事件
争点
事案概要  長距離輸送トラック運転手たる労働者に対して長距離勤務の乗車指示をしないのは、組合活動を理由とする不当労働行為であるとして、右の者が損害賠償を請求した事例。
参照法条 労働組合法7条1号
民法709条
民法536条2項
労働基準法2章
民法623条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 仕事の不賦与と賃金
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止
裁判年月日 1996年8月9日
裁判所名 松山地
裁判形式 決定
事件番号 平成8年 (ヨ) 77 
裁判結果 認容,一部却下(確定)
出典 労働判例704号108頁
審級関係
評釈論文 唐津博・民商法雑誌117巻4・5号229~238頁1998年2月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 これまでの組合と債務者との対立の経緯、また後記二で認めるとおり、そもそも債権者らに対する長距離勤務の乗車指示を行うか否かは、債務者の全く自由な裁量に委ねられているものと解すべきではなく、一定量の乗車指示をなすべきことが、債務者・債権者ら間の労働契約の内容になっていると考えられることに鑑みれば、遅くとも、本件仮処分申立事件における手続内で、債権者らの右要望が明らかとなり、ヘッドレス運行の具体的方法等につき話合いを行う機会を与えられた後である平成八年六月二四日第二回審尋期日の翌日以降、同年七月三一日まで、債務者が債権者らに対するヘッドレス運行の乗車指示を行わず、結果として長距離勤務の乗車指示自体を減少させた行為は、債権者らが労働組合の組合員であることを理由とする不利益な取扱であり、同時に債権者らに対する不法行為にあたると認めざるをえない。
〔賃金-賃金請求権の発生-仕事の不賦与と賃金〕
 債務者は、平成八年二月以降、債権者らに対しては乗車指示をほとんど出さないものの、債権者ら以外の従業員運転手に対しては、各自の運行手当にして月額四〇万円程度(税込)にも達する集中的な乗車指示を出していること、従って、債務者は、現にそれだけの長距離勤務を必要とする荷物運送の発注を受けていることが一応認められるところ、前記一で認定したところによれば、債務者は、平成八年二月以降同年四月五日までは、専ら組合、すなわち債権者ら自身の申入れに基づいてヘッドレス運行の乗車指示を控えていたものであるし、同年同月六日以降同年六月二四日までは、組合からの配車申入れはあったものの、それに直ちに応じなかった債務者の判断にも無理からぬ点があって、債務者の責に帰すべき事由によって債権者らの就労を拒否したとまでは認定しえないが、少なくとも平成八年六月二四日第二回審尋期日の翌日以降、同年七月三一日までの間は、債権者らの労務提供の申し出に対して、同人らに対しヘッドレス運行を含めた長距離勤務の乗車指示を行わないとする正当な理由が認められないにもかかわらず、債務者はなお債権者らに対する乗車指示を行わず、その結果債権者らは長距離勤務に就くことができなかったものであるから、同期間中、債権者らの債務(労務)は、債務者の責に帰すべき事由により履行不能となっていたものということができる。
 よって、債権者らは、債務者に対し、平成八年六月二五日以降同年七月三一日までの間、労働契約上も、運行手当を含めた賃金請求権を有するというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕
 債務者について、労働契約上、債権者らに対し、中長期的に見て能力経験が同等である運転手の間ではその仕事量も同等に近いものとなる方法をもって、相応の長距離勤務の乗車指示を行うべきことが予定されているとしても、債務者による乗車指示は、まさに債権者らに対し長距離勤務への就労を命ずるものであって、乗車指示を行いながら債権者らによる長距離勤務の労務(債務)提供を拒絶することは考えられず、債務者にとって乗車指示を行うことと債権者らによる労務(債務)提供を受領することは不可分一体となっていると認められるところ、労働者の労務提供は労働契約上の義務ではあっても権利ではなく、労働契約が高度に人的な関係であることからして、その受領を法的に強制することも相当でなく、就労の請求自体は認められないと解すべきであって、これと不可分一体をなす債務者による乗車指示自体も法的な強制にはなじまないというべきである(債務者による乗車指示の不履行は、前記一に記載のとおり、債権者らに対する不法行為に該当しうるし、前記二に記載のとおり、労働契約上の債権者らの反対請求権(賃金請求権)を失わせるものではないから、債権者らの保護は右請求権を認容する限りで図られるものと解さざるをえない。なお、労働者には就労請求権が認められないことについて、東京高決昭和三三年八月二日労民集九-五-八三一、広島高判昭和六〇年一月二五日判タ五五七-一七九、仙台地決昭和六〇年二月五日労民集三六-一-三二参照)。