全 情 報

ID番号 06846
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 リンク総研事件
争点
事案概要  退職金の計算方法につき、勤続年数に一定の倍率を乗じたものとした事例。
 退職金規定は就業規則の一部として、使用者と労働者との労働契約の一部を構成するものであり、当事者の知、不知にかかわらず拘束力を有するとした事例。
 会社主張の退職金の計算方法が労使慣行として成立していたとは言えないとした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3の2号
労働基準法106条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
就業規則(民事) / 就業規則の周知
裁判年月日 1996年8月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 8181 
裁判結果 認容
出典 労働判例703号33頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 2 前記認定のとおり、本件退職金規定七条は、「勤続年数別支給率は勤続年数に次の倍率を乗じたものとします。勤続年数は小数点以下二桁目を四捨五入し、小数点以下一桁までの値を使用します。」と規定し、これに続けて表を設け、勤続年数を三年未満が〇・五、三年以上五年未満が〇・七、五年以上が一・〇の三段階に分けてそれぞれ倍率を定めていた。
 同条の規定の内容及び体裁によれば、被告の勤続年数別支給率は、従業員の勤続年数に右表に記載された倍率を乗じた数値であると解するのが文言上最も自然である。そして、同条中に「勤続年数は小数点以下二桁目を四捨五入し、小数点以下一桁までの値を使用します。」との文言が置かれているが、被告主張の同条の解釈に立った場合、右の規定は無意味になってしまうことをも考え併せれば、被告における退職金算定の基礎となる勤続年数別支給率は、原告ら主張のとおり、前記表に記載された倍率を勤続年数に乗じて勤続年数別支給率を算出することを定めたものと解するのが相当といわなければならない。〔就業規則-就業規則の周知〕
 退職金規定は、就業規則の一部として使用者と労働者との労働契約の一部を構成し、当事者の知、不知にかかわらず、拘束力を有するものであることに鑑みれば、その解釈にあたっても、一義的明確性が要求され、特段の事情のない限り、退職金規定に記載された文言に従って解釈されるべきである。そして、本件退職金規定七条は、誰の目から見ても明らかな誤記であるとはいえず、それ自体一つの意味をもった文言であることに照らせば、その解釈は、前記判示のとおり、原告ら主張のように解するのが最も文言に忠実であり、自然なのである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕
 2 しかしながら、被告は、平成三年三月に設立された会社で、前掲各証拠によれば、原告らが退職したころまでに退職した従業員で、退職金の支給を受けたのは一一名にすぎなかった。さらに、右の取扱いが労使双方の規範意識に支えられていたことが窺える事情も見出せないことに鑑みれば、これらの者が被告主張の解釈により算出された金額の退職金の支給を受けていたとしても、そのことにより、被告主張の労使慣行が成立していたとすることはできない。