全 情 報

ID番号 06849
事件名 労働契約地位確認等請求事件
いわゆる事件名 東労精機事件
争点
事案概要  ヴァンデータの抜取り、製造部品の加工手順用のテープの破棄、加工用プログラムの消去などによる業務妨害行為を理由とする解雇を有効とした事例。
 ヴァンデータの抜取り等による解雇につき、権利濫用には当たらないとした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1996年9月11日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 7694 
裁判結果 棄却
出典 労働判例710号51頁/労経速報1631号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-バックペイと中間収入の控除〕
 三 本件妨害行為について
 1 原告は、平成五年七月二二日ころ、原告が担当するNC旋盤の数値制御装置に読み込まれていた一四Aロットエンド(二号機)及び二四Tシリンダテイル(三号機)の加工用プログラムを消去し、右各NC旋盤に加工用プログラムを読み込ませる加工用テープ一四本を被告会社に無断で社外に持ち出してそのうち一三本を破棄し、さらに、保存用フロッピーから、右一四本分の加工用プログラムを消去した(本件妨害行為)結果、被告会社の同月二三日以後の業務に支障を来し、二四Tシリンダテイルについては外注に出さねばならなくなったことが認められる。
 2 これに対し、原告は、本件妨害行為の外形的事実は認めながらも、これらはいずれも被告会社の業務に支障を来すものではないこと、平成五年七月二二日当時、原告は予定の納期分の作業はすべて終了していたこと、被告会社からの引継ぎの指示はなかったから本件妨害行為とされるものは問題とされるべきものではないことを各主張し、(書証略)、被告本人尋問の結果中にはこれに沿うかの部分がある。
 3(一) 〔中略〕平成五年七月当時、被告会社では、雇用調整助成金受理のためA会社への納期の三日前までに仕組品を完成することが必要とされていたこと、同月二二日に原告が製造する部品の材料がなくなった際に、被告会社は、B会社に翌日の材料の入荷を依頼しており、現に翌二三日午前八時三〇分ころ、材料の納品を受けていること、原告は被告会社の一現場作業員に過ぎず、部品の納期や作業の進行状況を完全に把握する立場にあったとまでは認めがたいことに照らすと、右2掲記の各証拠は信用できず、他に原告の右主張を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、原告が予定の作業をすべて終了していたことを前提とする原告のその余の主張はいずれも採用できない。
 (二) 〔中略〕右数値制御装置内に記憶された加工用プログラムを消去し、加工用テープを破棄のうえ、保存用フロッピーから当該加工用プログラムを消去すれば、NC旋盤は稼働できなくなること、二号機及び三号機については、かねてより原告が加工手順に独自の工夫を加えてきた結果、被告会社において初期テープを有していたとしても、それらを右二号機及び三号機に利用すれば、刃物及び機械が損壊し、人体にも損害を与えかねないことは、いずれも原告自身が(書証略)、原告本人尋問の結果中で自認しているところであるばかりでなく、原告は、(書証略)、原告本人尋問の結果中で初期テープ等によって二号機及び三号機を稼働させるためには、再度刃物の装着や原点の設定をやり直さなければならない(段取り替え)ことを自認し、さらに、(書証略)、原告本人尋問の結果中では、右段取り替えに相当の時間を要する旨を自認していることに照らすと、右2掲記の各証拠は到底信用することができず、被告会社の業務に支障は生じなかった旨の原告の主張は採用できない。
 (三) さらにすすんで、Cは、平成五年七月二三日以前から、原告が休暇を取得する際には原告に代わって二号機及び三号機を稼働させてきたこと、同人は、二号機及び三号機の知識がなく、従前はCが起動ボタンを押せば作業ができるように原告が二号機及び三号機をあらかじめ設定しておいていたこと、当時の二号機及び三号機の刃物の装着位置や作業手順は原告自身の工夫によっており、原告が独自に作成した加工用プログラム又は加工用テープがなければ稼働できない状況にあったこと、平成五年七月当時、被告会社においては雇用調整助成金受理のため、原告が製造する部品は、A会社への納期の三日前までに仕組品を完成させることが必要とされていたこと、同月二二日に製造する部品の材料がなくなったものの、原告はCを通じて翌二三日午前中には材料が入荷されることを知らされていたこと、同月二七日以降の原告の被告会社に対する不誠実な対応に鑑みると、たまたま被告会社の上司から直接、原告に対して同月二三日の業務について正規の引継ぎの指示がないからといって、原告の本件妨害行為を正当化することはできないばかりでなく、むしろ、前記認定の事実に鑑みるとき、原告は、会社の業務を妨害する意図を持って、本件妨害行為を敢行したと認めるのが相当である。
 4 以上認定の事実によると、原告の本件妨害行為は、被告会社就業規則一四条一項三号(就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合)、二七条一項三号(退社は工具、書類等を整理、格納した後に行うこと)、三六条(服務の基本原則)、三七条五号(会社の車両、機械、器具、その他の備品を大切にし原材料、燃料その他の消耗品の節約に努め、製品及び書類は丁寧に取り扱い、その保管を厳密にすること)、八号(作業を妨害し又は職場の風紀秩序を乱さないこと)、四三条四号(故意に業務の能率を阻害し又は業務の遂行を妨げたとき)、七号(許可なく会社の物品を持ち出し又は持ち出そうとしたとき)に、それぞれ該当するものというべきである。
 四 原告の暴言について
 1 前記のとおり、前掲各証拠から、原告は、Cに対し、平成五年七月二七日、A会社に内容証明を出せば被告会社なんか潰れてしまう、との暴言を吐いた事実が認められる。〔中略〕
 原告は右七月二七日に先立つ同月二二日ころ、本件妨害行為を意図的に行っていたこと、同月二七日にも役員会からの呼び出しに応じず、むしろ被告会社役員らが原告の作業現場に足を運んで事情を聴取するなど、原告の被告会社に対する挑戦的態度が濃厚に窺えること、原告が右発言を実行することを危惧した被告代表者は、同年八月にはA会社滋賀工場に赴いて事情を説明し、警告書を交付されている〔中略〕、右認定の事実によると、原告の右暴言は、被告会社就業規則四三条八号(会社の名誉、信用を傷つけたとき)に該当するものというべきである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 七 解雇権濫用の主張について
 原告は、本件解雇が、解雇権濫用に当たる旨主張するので、判断するに、〔中略〕原告の各所為は、いずれも故意になされたものであって、殊に本件妨害行為に至っては、意図的に被告会社の業務を妨害するためにしたものであって、悪質であるから、被告会社においては原告を懲戒解雇とする余地も十分にあったと考えられるところである。しかしながら、被告会社は、原告の長年の勤続の事実に鑑み、特に原告が退職金を受給できる通常解雇としたものであって、その措置は、至って温情のあるものというべきであるので、本件解雇をもって解雇権の濫用とすべき事情は認めることができない。
 なお、被告会社は、原告を解雇するに当たって右暴言の事実を解雇の通告書に記載していないが、従業員を通常解雇するに際して、その解雇事由をすべて告知し、従業員に弁明の機会を与えなければならない法律上の根拠はないばかりでなく、右暴言は、原告によるヴァンデータの抜き取りや本件妨害行為とも密接に関連する文脈でなされたことは前記認定のとおりであるから、たまたま右暴言について解雇通告書で挙示されていなかったとしても、そのことの故に本件解雇が解雇権濫用として無効になるものではない。