ID番号 | : | 06854 |
事件名 | : | 公務外認定処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 地方公務員災害基金宮城県支部長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 基礎疾病を有する工業高校教諭の授業中の脳血管障害による死亡につき、業務が相対的に有力な原因となっているとして、公務起因性を肯定した事例。 |
参照法条 | : | 地方公務員災害補償法32条 地方公務員災害補償法42条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1996年9月20日 |
裁判所名 | : | 宮崎地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (行ウ) 8 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 労働判例711号83頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 5 過重な業務と基礎疾患の増悪との間の因果関係 (人証略)は、業務に伴う肉体的疲労が高血圧症や動脈硬化症を招来するとは考え難く、肉体的疲労によって精神的ストレスが生じ、これが一過性の血圧上昇をもたらすことはあるが、精神的ストレスが単独で持続的高血圧(血管の変化を伴うような慢性的な高血圧症)をもたらすことは稀である旨供述する。 確かに、肉体的・精神的ストレスが単独で持続的な血圧上昇や動脈硬化をもたらすことについての確実な医学的証拠はない。しかしながら、緊張を強いられる職域では高血圧症の発症頻度が高く、また、過大なストレスにさらされている人については動脈硬化症疾患が高率に発生している等、長期間の社会・心理的ストレスと高血圧症等との関連を示唆する調査結果等により、経験的に関連性を認めることができる。さらに、本態性高血圧患者では精神的ストレスによる血圧の上昇が正常血圧者に比べて大きく、遺伝的素因や食餌因子に精神的ストレスが重なると持続的な血圧上昇を生じる可能性があることが知られており、動物実験等でも、過大なストレスが動物に負荷された場合に、一時的ないし持続的な血圧上昇が招来され、血管が硬化するような物質が動物の体内に多量に生産されるという結果が得られている。これらによれば、過大な肉体的・精神的ストレスが慢性的に続く場合、程度の差はあっても、動脈硬化や持続的な血圧上昇等のストレス病的症状を伴うものと推認することが可能である。(〈証拠略〉) 本件においても、過重な業務が長期にわたったこと、業務が過重なものになった時期と境界高血圧が高血圧症に転じた時期とが一致していること、本件被災の前に約四年間にわたる過重業務に対する回復措置が採られていないこと及びAにおける食餌因子は小さいことが認められることから、Aの高血圧症及び動脈硬化症が死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができる。 なお、(人証略)は、精神的ストレスは継続して加えられることによりいわゆる耐性を生じ、ストレスと感じられなくなる旨の見解も述べている。この見解が転居や転職等一時的なものや持続的なものでも同一性がある精神的ストレスに関しては一般論として妥当するとしても、Aの生活指導に伴う精神的ストレスは、不定期的に個々別々の生徒による個々別々の非行案件に対処しなければならない類のものであって、その対応は常に変動し、耐性が生じたとしても、Aの受けるストレスを激減・消滅させたとは認められない。 右に検討したとおり、Aの脳出血とこれによる死亡は、単なる公務の機会に発生した偶然の出来事ではなく、同人の公務遂行の状況及びこれによりもたらされたと考えられる精神的肉体的ストレスが相対的に有力な原因となって、同人の有していた高血圧症が自然的経過を超えて増悪したものと推認することができ、Aの死亡原因となった右脳出血の発症と公務との間には相当因果関係があり、Aは「公務上死亡」したものというべきである。 |