ID番号 | : | 06856 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 北九州西労働基準監督署長(東京製鉄)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 製鋼作業員として勤務しペンダント作業に従事していた労働者が、休憩時間中に心筋梗塞を発症して死亡したことにつき、右疾病による死亡と業務との間に相当因果関係があるとして、右労働者の遺族が労基署長の不支給処分の取消しを求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法7条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1996年9月25日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成4年 (行ウ) 1 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | タイムズ942号139頁/労働判例705号61頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 労災保険法に基づく遺族補償給付、葬祭料が支給されるためには、労働者が業務上死亡すること、すなわち、その死亡が業務に起因すると認められることが必要であるが(労災保険法七条一項一号、一二条の八、労働基準法七九条、八〇条)、いわゆる労災補償制度が、業務に内在または随伴する危険が現実化した場合に、それによって労働者に発生した損失を補償するために設けられたものであることに鑑みると、この業務起因性が認められるためには、死亡と業務との間に、業務に内在する危険が現実化したと評価できる関係、すなわち、相当因果関係のあることが必要であると解するのが相当である。そして、本件のように労働者があらかじめ有していた基礎疾病などが原因となって死亡した場合については、当該業務の遂行が当該労働者にとって精神的、肉体的に過重負荷となり、右基礎疾病の自然的経過を超えて増悪させ、その死亡時期を早め、死の結果を招いたと認められる場合には、特段の事情がない限り、右死亡は業務上の死亡であると解するべきである。 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 3 Aは、死亡前日である昭和六〇年九月一八日、午前五時三〇分ころ自宅を出て、一直・二直の連続勤務をした後、午後一一時二〇分ころ帰宅し、約三時間半の睡眠をとって、翌一九日は一直勤務のため、午前六時ころ出勤し、作業を開始していることは、前記認定のとおりである。 このことは、死亡前日から当日にかけてのAの労働が特に過重であり、発症時点で睡眠不足や疲労、精神的ストレスがピークの状態にあったことを窺わせるものであり、それがAの発症に強い影響を与えたものと推測することができる。 もっとも、被告は、このような連続勤務は、Aを含めた全ペンダントマンが従来月に二回から三回行っており、通常の勤務形態であるから、過重ではない旨主張するが、前記の作業内容、作業環境に照らし、社会通念からみて採用することはできない。 4 Aには、昭和六〇年当時、高脂血症、喫煙習慣、四〇歳代男子という心筋梗塞の危険因子があったことは認められるが、Aの冠状動脈の器質的狭窄の程度は不明であり、健康診断の結果も日常生活に特に問題はないとされ、虚血性変化の所見は認められておらず、胸の痛みなどの臨床症状についての記載もなかったことを合わせ考えると、血管病変の自然的経過によりAの心筋梗塞が起きたとは考えられない。換言すれば、何らかの他の要因が作用して、Aの血管病変を増悪させ、自然的経過を越えて、急性心筋梗塞の発症に至らせたものというべきである。そして、本件においては、突発的・災害的な他の要因を認めることはできないので、業務以外に要因となりうるものがあるとは考え難いというべきである。 B医師の鑑定書(乙八の6)及び証言中、右認定に反する部分は採用できない。 5 以上を総合して判断するに、Aは、急性心筋梗塞の原因となるような血管病変はあったが、死亡前日及び当日の過重な業務に従事することで血管の収縮と拡張を調節する自律神経機能に変調を来たしていたところ、高温多湿の作業現場から冷房が効いている休憩室に移動したことにより、急激な血管収縮を引き起こし、回復できないまま心筋梗塞になり、死亡したものと推認することができる。Aの発症は、死亡前日及び当日の過重な業務が、Aの基礎疾病の自然的経過を越えて増悪させ、その死亡時期を早めたというべきであるから、業務に内在する危険が現実化したものと評価すべきであって、Aの死亡と業務との間に相当因果関係があり、Aの死亡が業務に起因するものと認めることができる。 |