全 情 報

ID番号 06859
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 日本テレコム事件
争点
事案概要  歩合給の支給要件として会社に「課金」が生じたときに支払われるとされており、本件では右要件が充たされていないので歩合給請求権は発生しないとされた事例。
 賞与に関する「支給日在籍要件」が充たされていないとして、賞与請求権は発生していないとした事例。
参照法条 労働基準法27条
労働基準法89条1項2号
体系項目 賃金(民事) / 出来高払いの保障給・歩合給
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 支給日在籍制度
裁判年月日 1996年9月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 8749 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例707号74頁/労経速報1625号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-出来高払いの保障給・歩合給〕
 一 争点1(原告のA会社東京店に対する営業活動が、歩合給発生の為の要件を満たすか否か)について
 1 (証拠・人証略)に前記当事者間に争いのない事実等を総合すれば、以下の事実が認められる。
 被告の営業社員に対する賃金は、固定給及び歩合給とで構成され、歩合給は、営業社員が、被告に課金が発生する内容の契約の申込みを顧客から受けた場合に支給されることとなっていた。そして、被告に課金が発生し、歩合給支給の対象となる契約とは、具体的には、第一に、顧客から、被告以外の他の新電電のアダプターが設置されていない第一優先の〇〇八八市外電話サービス申込書を獲得した場合、第二に、顧客に既に他の新電電のアダプターが設置されていた場合には、顧客からリプレースについての承諾を受け、〇〇八八市外電話サービス申込書及び現存する他の新電電の設置したアダプターについての解約を求める解約書を受け取った場合、第三に、川崎地区においては、平成三年三月一五日以降、DDIのアダプターを設置している顧客との間において、DDIに対し、アダプターの選択について、被告を第二優先順位とする合意が成立し、当該顧客がDDIに被告回線利用申込証を提出した場合であった。川崎地区において右の特例が設けられたのは、同地区において、被告が、平成三年六月二一日にPOIを開設することとなったため、POIを開設していなかったDDIとの関係で、被告が第二優先順位となっても、被告に課金が発生するようになったためである。被告は、原告を含む営業社員に対し、課金発生のシステムや、歩合給発生のための要件について、雇用契約締結後実施された営業研修及び日常の指示等の機会に説明していた。原告は、平成三年四月中旬頃、A会社東京店に対し、〇〇八八市外電話サービス契約締結についての交渉を開始したが、A会社東京店の所在地は東京都千代田区であって川崎地区外にあり、また、同店には、当時既にDDIのアダプターが設置されていた。そして、原告は、A会社東京店から、〇〇八八市外電話サービス申込証及び解約書を受領し、これらを被告に提出した。被告は、営業社員から、顧客の解約書を受取った場合、後日のトラブル発生防止のため、電話等で顧客に対し、他の新電電のアダプターを解約することについて問題がないかどうかの意思確認を行っており、A会社東京店に対しても、DDIのアダプターを解約することにつき問題がないかどうかの確認のため同店の担当者に連絡を入れたところ、同人から、原告には、初回の説明からDDIのアダプターは取り外さないで欲しい旨を申入れており、解約書がDDIのアダプターを取り外すためのものであるという説明を聞いておらず、A会社東京店が考えていた被告との契約の内容は、DDIのアダプターを利用しつつ、被告対応にするだけに過ぎないものであるという内容の回答を得た。被告は、右の回答からして、A会社東京店はリプレースを承諾していないと判断し、受領していた解約書をA会社東京店に返却した。
 2 以上の事実関係に基づき検討すれば、A会社東京店について被告に課金を生じさせるためにはリプレースすることを要し、その前提として同店がリプレースを承諾することが必要となるので、原告の歩合給も、右の承諾を得た上で、解約書等を取得することにより初めて発生することになるが、同店には、リプレースの意思が最初から全くなかったことが明らかであって、同店は解約書を作成し、原告に渡しているものの、これは誤解に基づき誤って作成されたものに過ぎず、被告自身もリプレース不成立であると認め、解約書をA会社東京店に返却しているのであるから、同店については、歩合給発生のための要件が満たされなかったものと認められる。
 以上からすれば、原告が、A会社東京店との契約に関し、歩合給の支払いを求める点は理由がない。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-支給日在籍制度〕
 二 争点2(原告の平成三年度夏季賞与請求権の有無)について
 (証拠・人証略)、前記当事者間に争いのない事実等を総合すると、営業外務社員である原告には、被告臨時社員就業規則が適用されること、同就業規則二四条、同条に基づく「臨時社員就業規則」別の定め三条一、二号は、被告は賞与支給対象となる契約社員を、賞与支給日に在職する者に限定していたこと、被告における平成三年度夏季賞与の支給日は平成三年六月二七日であったこと、原告は右賞与支給日に先立つ同年五月三一日付けで解雇され、右賞与支給日には被告に在職しなかったことが認められる。そうすると、前記の各規定により、原告は平成三年度の夏季賞与の受給資格を有しないこととなる。
 したがって、原告が、被告に対し、平成三年度夏季賞与の支払いを求める点は理由がない。