ID番号 | : | 06861 |
事件名 | : | 労災保険不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 西宮労働基準監督署長(大阪淡路交通)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 観光バスの運転手が高血圧性脳出血に罹ったことにつき右疾病と業務との間に相当因果関係があるとして、労基署長の不支給処分の取消しを求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条 労働者災害補償保険法12条の8 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 |
裁判年月日 | : | 1996年9月27日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成4年 (行ウ) 9 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | タイムズ934号241頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 1 被災労働者に対して、労災保険法に基づく労災補償給付が行われるには当該疾病が「業務上」のものであること(労災保険法第一二条の八第二項、労基法七九条)、具体的には労基法施行規則三五条に基づく別表第一の二第九号にいう「業務に起因することの明らかな疾病」にあたることが要件とされる。 そして、労災保険制度が使用者の過失の有無を問わずに被災者の損失を填補する制度であることに鑑みれば、「業務上」の疾病といえるためには、当該疾病が被災者の従事していた業務に内在ないし随伴する危険性が発現したものと認められる必要がある。したがって、被災労働者の疾病が業務上の疾病といえるためには、業務と当該疾病の発症との間に条件関係があることを前提に、労災保険制度の趣旨等に照らして、両者の間にそのような補償を行うことを相当とする関係、いわゆる相当因果関係があることが必要であると解される。 2 そして、右相当因果関係が認められるためには、業務が当該疾病の唯一の条件である必要はないが、当該疾病が業務に内在する危険性の発現と認められる関係にあることが必要であるから、当該業務が被災労働者の基礎疾病等の他の要因と比較して相対的に有力な原因として作用し、その結果当該疾病を発症したことが必要であると解すべきである。これを基礎疾病との関係でいえば、過重な業務の遂行が、右基礎疾病を自然的経過を超えて増悪させた結果、より重篤な疾病を発症させたと認められる関係が必要である。 3 ところで、今日何らかの基礎疾病を抱えながら業務に従事する者は多いことを考えると、基礎疾病をコントロールしながら日常の業務に従事している者が、通常より過重な業務を行ったために疾病を発症した場合、労災補償制度の保護を受けるに値するものであるから、当該業務の過重性の判断にあたっては、何らの基礎疾病を有しない健常人ではなく、当該労働者が従事していた通常の業務に耐え得る程度の基礎疾病を有する者を基準とすべきである。 4 被告は、業務起因性の判断については、前記の新(ないし旧)認定基準によるべきであると主張する。これらの認定基準は、専門医師で構成された専門家会議によって検討された結果定められたものであり、その内容は尊重されるべきものではあるが、認定基準は、業務上外認定処分を所管する行政庁が、実際に処分を行う下部行政機関に対して運用の基準を示した通達であって、司法上の判断にあたっては、必ずしもこれに拘束されるものではない。とりわけ、発症一週間前以前の業務の評価について、新認定基準は、発症前一週間以内の業務が日常業務を相当程度超える場合に限って、発症前一週間より前の業務を含めて総合的に判断することとしているが、右の点は、医学的根拠に基づくものというよりは、行政通達としての基準の明確化の要請によるところが大きいと考えられることから、発症前一週間以内の業務の軽重にかかわらず、発症前一週間以前の業務についても含めて総合的に判断すべきである。 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 Aの本件疾病は、基礎疾病である高血圧症がその一因となっていることが否定できないとしても、むしろ、Aの担当業務が過重な負荷となり、右業務による急激な血圧上昇の反復により、基礎疾病が自然的経過を超えて増悪させて発症を早められ、発症に至ったものというべきである。 したがって、本件疾病発症については、業務が相対的に有力な原因となっているとみられ、Aの業務と本件疾病との間に相当因果関係を認めることができる。 |