ID番号 | : | 06872 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 金沢セクシュアルハラスメント事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 代表取締役宅で家政婦的業務に従事していた女性従業員が、抱きつかれたり性的交渉を求められる等のセクハラを受けたとして右取締役及び会社を相手として損害賠償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法44条1項 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント 解雇(民事) / 解雇事由 / 人格的信頼関係 |
裁判年月日 | : | 1996年10月30日 |
裁判所名 | : | 名古屋高金沢支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ネ) 98 平成6年 (ネ) 103 |
裁判結果 | : | 認容,一部棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例707号37頁/労経速報1624号15頁 |
審級関係 | : | 一審/金沢地輪島支/平 6. 5.26/不明 |
評釈論文 | : | 笹沼朋子・労働法律旬報1414号16~23頁1997年8月25日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕 第一審被告Yは、第一審原告を雇用して間もなく、自己が雇い主の立場にあることを奇貨として、離婚して当時一人身であった第一審原告に、妻に逃げられた不遇の身をかこつような言動をし、二月二日夜、Aと三人で飲食した際、第一審被告Yの卑猥な言葉にも第一審原告が嫌がる風なく大胆に応じたことに気を許し、以後、Y宅で家政婦として勤務中、あるいは勤務時間後の第一審原告に対し、性的な言動を平気で行い、大胆にも第一審原告の胸を触ろうとしたり、首筋に口を寄せるなどし、挙げ句には性交渉を迫り、三月二七日には「お金をあげるから」と言って、いきなりスラックスを下着ごとずらせる猥褻行為に出、以後も、四月上旬に「社長のしていることはセクハラである」と抗議されるまで、右性的な言動を繰り返したことが明らかである。 ところで、職場において、男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべきである。 これを本件についてみると、前記一1ないし3で認定した第一審被告Y及び第一審原告の年齢、経歴、婚姻歴等に、右性的言動の行われた場所、第一審原告の対応等からすると、三月二七日の強制猥褻行為はそれ自体違法である上、その前後の二月三日以後四月上旬までの第一審被告Yの第一審原告に対する言動は、社会的見地から不相当とされる程度のものと認められ、第一審原告の人格の尊厳性を損なうものであることが明らかであるから違法というべきである。また、八月七日の殴打は理由が何であれ、それ自体違法な行為であることは明らかである。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-人格的信頼関係〕 前記認定の事実からすると、第一審被告会社は、九月一四日に第一審原告を解雇したものと認められるところ、最も雇い主との人的な信頼関係が要求される家政婦の職務内容、元はと言えば第一審被告Yの違法な言動が原因しているとはいえ、第一審被告Yのした指示が、すべてセクシュアル・ハラスメントであるとして、口頭及び文書で執拗に抗議する態度からして、九月上旬時点で、両者の信頼関係は完全に損なわれるに至っていること及び第一審原告の家政婦としての能力に疑問の点があることからすれば、同月一四日付でした第一審被告会社の第一審原告に対する普通解雇の意思表示が、使用者に認められた解雇の権利を濫用した違法なものとは認めることはできない。 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕 第一審被告会社は、本店所在地でもあり、種々電話連絡等もある代表取締役宅の家政を一手に委ねるために第一審原告を採用したものであり、第一審被告Yが第一審原告から食事等の家政の提供を受けることは、妻の家出後であること、第一審被告Y自らがそれを受けて昼夜を問わぬ第一審被告会社の役務を現実に担っていた等の特殊な事情を考慮すれば、第一審被告Yの職務とは別の個人的利益とは認めることはできず、むしろ職務行為ないしはこれと牽連する行為と認めるのが相当である。そうすれば、この間になされた代表取締役である第一審被告Yの前記違法行為について、第一審被告会社は、第一審原告に対し、民法四四条一項によって損害賠償すべき義務を負うものと解するのが相当である。 |