全 情 報

ID番号 06873
事件名 雇用契約存在確認等請求事件
いわゆる事件名 日本電信電話(西新井電話局)事件
争点
事案概要  頚肩腕症候群に罹った労働者が、勤務指示への不満を理由に行ったビラ配布、診療妨害、勤務指示を無視した欠務、精密検診拒否等を理由に免職処分を受けその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法19条
日本電信電話公社法31条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇制限(労基法19条) / 解雇制限と業務上・外
裁判年月日 1996年10月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 4792 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例705号45頁/労経速報1624号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 原告に対する公社の本件各勤務指示は、いずれも合理的かつ相当であるから、右指示が不満であるからといって本件ビラ配布行為による療養専念義務違反・診療妨害行為、本件勤務指示を無視した欠務及び精密検診受診拒否を本件免職処分事由としたことをもって解雇権の濫用ということはできない。そして、本件ビラ配布行為による療養専念義務違反・診療妨害行為、精密検診受診拒否の各行為の動機、方法・態様、結果及び欠務の動機、態様、期間・程度等を総合的に勘案すると、たとえ原告が従前職制から嫌がらせや締め付けを受けたと感じ、公社に不信感を抱いていたこと、医師も自己の病状を理解してくれないと考え、医師不信の状態にあったこと、A健康管理医との信頼関係も徐々になくなったこと等原告の主観的心情を考慮したとしても、本件免職処分は、客観的に合理的で社会通念上相当として是認される。
 したがって、本件免職処分が公社による解雇権の濫用で無効であるという原告の主張は採用できない。
〔解雇-解雇制限(労基法19条)-解雇制限と業務上・外〕
 原告は、本件免職処分が、原告が療養のために休業する期間及びその後三〇日間以内になされたものであるから、本件免職処分は労基法一九条に違反して無効であると主張する。
 しかし、証拠(〈証拠略〉)によると、原告に対しては、電話交換業務を離れた約二ケ月後である昭和四八年七月一〇日以降昭和五六年四月一五日まで七年以上ほぼ同内容の診断がなされてきており、本症に関する診察内容にも特段の変化がなく、この間の治療内容も「電気モビ、ホットパック」が継続的に行われてきたことが認められ(〈証拠略〉)、原告の症状の変化を窺わせるような事実はなかった。そして、前述の通り、同日の時点で、主治医のB医師が原告を診察した模様を記載したカルテには、肩部の筋肉硬結の記載が見られる他は他覚的所見の記載はなく(〈証拠略〉)、また、右診察・検査結果を基に同月二五日にB医師が作成した診察・検査結果等通知書(〈証拠略〉)においては、「診察での所見では筋肉圧痛、硬結あるも大した苦痛ではない。頸椎X-Pでの所見はやや異常を呈しているが基質的な異常は認められない。」との診断内容となっており、右診察・検査結果等通知書を基礎資料にして、C病院のD医師及びE病院のF医師が判定した結果は、いずれも原告は通常の一般事務に就労するについては、全日勤務可能との判断がなされている(〈証拠略〉)のであり、同月一五日の時点で、原告の症状は治癒ないし少なくとも症状固定の状態にあったと認められる。
 したがって、原告の症状は、遅くとも昭和五六年四月一四日には症状固定の状態にあったということができ、原告の前記主張は採用できない。
 この点、原告は、本件免職処分の前後、B医師の指示により、マッサージやはりの治療を受けており、同月以降本件免職処分までの間、右疾病による療養のため合計二六回八三時間の休業をしたと主張するが、右主張にいう治療や休業の事実が認められるとしても、症状固定という前記認定を揺るがすことにはならないし、また、B医師は、原告は、平成二年七月二〇日の時点においても治療を継続しているが、自覚症状がかなり残ったり、増悪したりしているから完全治癒ではないと考えると述べるが、この点も前記の理由により信用し難い。
 以上述べたところから、本件免職処分が、原告が療養のために休業する期間及びその後三〇日間内になされたとはいえず、本件免職処分が労基法一九条に違反して無効であるという原告の主張は採用できない。