ID番号 | : | 06878 |
事件名 | : | 遺族補償年金給付等不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 名古屋南労働基準監督署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 高血圧の基礎疾病を有する労働者が韓国出張中に脳出血によって死亡したケースにつき、出張による精神的、肉体的な過重負担が相対的に有力な原因となったとして、業務起因性ありとした事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条 労働者災害補償保険法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1996年11月26日 |
裁判所名 | : | 名古屋高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (行コ) 23 |
裁判結果 | : | 控訴棄却(確定) |
出典 | : | 労働民例集47巻5-6号627頁/タイムズ938号122頁/労働判例707号27頁 |
審級関係 | : | 一審/06298/名古屋地/平 6. 8.26/平成1年(行ウ)9号 |
評釈論文 | : | 小畑史子・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕102~103頁2000年3月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 2 相当因果関係の存否について 以上説示のとおり、Aの出張業務、特に遠方への出張業務は、その具体的な内容、日程、態様等に照らし、本来不規則で拘束性の強いもので、以前から全体として大きな肉体的、精神的負担を伴うものであったというべきであるところ、昭和五八年に入ってからの出張業務、特に同年二月に入ってからの出張業務は、韓国出張が近づくに従ってAの肉体的、精神的負担を格段に増加させ、疲労を高度に蓄積させたものというべきである(特に、韓国出発前の二月七、八、九日の出張業務は、格段に肉体的、精神的負担の大きなものであったというべきである。)。そして、Aは、この疲労を回復させることなく、さらに韓国出張直前には徹夜に近い状態で準備をして韓国に出かけ、この出張が、Aにとっての初めての海外出張であって、販路拡大の用向きも併せて重要な出張用務であったこと等から、結局、Aの韓国出張に伴う精神的負担は大きかったというべきであり、しかも、本件発症当日の釜山の気象条件は急激な寒冷により、高血圧症を増悪させるストレスになりうるものであったということができる。そうすると、これら昭和五八年二月に入ってから本件脳出血発症当日までの業務によりAが受けた労働負荷は、前記認定の医学的知見に照らし、Aと同程度の六〇歳を超えた年齢、経験等を有し、日常業務を支障なく遂行できる健康状態にある労働者を基準にして、基礎疾患である血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得る過重なものであったというべきである。 これに対し、Aには脳出血の危険因子である高血圧症の基礎疾患があったが、前記認定のとおり、同人の血圧値は、継続的な通院治療を受けていたことにより、ほぼ正常範囲にコントロールされ、同人の高血圧症の程度は最も軽症の部類に属するものであったし、韓国出張に出かける前にも、かかりつけの医師の診断を受け、出張に差し支えがない旨の判断を得、投薬を受けて薬を韓国出張に持参していたから、同人の高血圧は、当時自然の経過により増悪し脳出血発症を引き起こすことが危惧される程度には至っていなかったというべきである。 そこで、以上を総合すると、これらの業務、特に昭和五八年二月に入ってから韓国出張直前までの業務によるAに対する高度の肉体的、精神的負担及びこれによる疲労に、韓国出張による精神的負担及び脳出血発症の日の寒冷ストレスがさらに加わり、これらが高血圧症の基礎疾患を有するAにとって脳出血を発症させる危険性のある過重負荷となり、この過重負荷がAの高血圧症を自然経過を超えて増悪させ、基礎疾患である脳血管病変を著しく増悪させて脳出血を発症させたものと認めるのが相当である。そうであれば、Aの業務による過重負荷が同人の脳出血発症について相対的に有力な原因となっているものというべきであり、結局、同人の脳出血発症による死亡は同人の業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものということができる。したがって、Aの業務と脳出血発症による同人の死亡との間には相当因果関係があり、同人の死亡は業務に起因するものと認めるのが相当である。 |