ID番号 | : | 06897 |
事件名 | : | 賃金仮払仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | ディエファイ西友事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | ディスカウント・スーパーマーケットの店舗展開をする会社の社長のスペシャル・アシスタントとして雇用された独身女性従業員が、勤務成績不良を理由にバイヤーへの配転を命じられ、バイヤー勤務でも成績が不良であるとして降格のうえ賃金の減額を命じられ、右賃金の減額を不当であるとして減額部分に相当する差額賃金の仮払い仮処分を求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法13条 労働基準法14条 民法623条 民法629条1項 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働条件の原則 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 |
裁判年月日 | : | 1997年1月24日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成8年 (ヨ) 21207 |
裁判結果 | : | 却下(確定) |
出典 | : | 時報1592号137頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 安枝英のぶ・判例評論465〔判例時報1612〕221~226頁1997年11月1日/山川隆一・ジュリスト1117号206~208頁1997年8月1日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働条件の対等決定〕 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕 1 一般に、労働者の賃金額は、当初の労働契約及びその後の昇給の合意等の契約の拘束力によって、使用者・債務者とも相互に拘束されるのであるから、労働者の同意がある場合、懲戒処分として減給処分がなされる場合その他特段の事情がない限り、使用者において一方的に賃金額を減額することは許されない。 2 ところで、本件において、債務者が一方的措置として債権者の賃金額を減額したことについては、当事者間に争いがない。 この賃金の一方的な減額を正当化する根拠として、債務者は、経営者としての裁量権の行使として賃金額減額をすることができる旨を主張する。しかしながら、経営者としての裁量権のみでは、一方的な賃金減額の法的根拠とならない。なお、本件における減額が勤務成績不良による懲戒処分としての減額の場合であるとするならば、就業規則の定めその他の懲戒処分の根拠を主張・疎明する必要があるが、このような主張・疎明はない。 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕 3 他方、債務者は、債権者が業務成績不良であるため、債権者に対し、当初の契約内容とは異なる職種への配転を命じ、この配転に伴って、配転後の職種の他の従業員と同等の賃金額に減額したものである旨を主張する。 たしかに、配転については、原則として、経営者の裁量権が尊重されるべきであり、労働者は、具体的な職務内容を求めることのできる具体的な請求権を有しないと解するべきである。 しかしながら、配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連しておらず、労働者が使用者からの配転命令に従わなくてはならないということが直ちに賃金減額処分に服しなければならないということを意味するものではない。使用者は、より低額な賃金が相当であるような職種への配転を命じた場合であっても、特段の事情のない限り、賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているのである。したがって、本件においても、債務者から債権者に対する配転命令があったということも契約上の賃金を一方的に減額するための法的根拠とはならない。〔中略〕 固有の意味での年俸は、契約期間を一年とする雇用契約における賃金であって、その金額に関する契約上の拘束力も契約期間である一年間に限定される。したがって、固有の意味における年俸にあっては、一年間の契約期間が経過した後、年俸額も含めて従前通りに契約更新をする旨の合意が存在しない限り、前年度の年俸額がそのまま次年度の年俸額となるわけではなく、仮に雇用することのみについて契約更新をすることの合意が成立し、年俸額については合意が成立しないというような事案があるとすれば、そのような年俸額に関する合意未了の労働者は、賃金債権につき契約上の何らの発生原因を有しないことになり、たかだか当該年度において当該契約当事者双方に対して適用のある最低賃金の額の限度内での賃金債権を有するに過ぎないことになるであろう。右のように、かかる固有の年俸制による労働契約にあっては、各契約年度の賃金債権は、使用者と労働者との間の合意によってのみ形成されることになるから、労働者の前年度における勤務実績や当年度における職務内容等の諸要素によって、事実上、前年度よりも年俸額が減少する結果となることもあり得ることであり、それが当事者間の合意に基づくものである限り、年俸額の減少は、適法・有効である。 しかしながら、前記のとおり、本件雇用契約は、期間の定めのない労働契約であり、右のような意味での固有の年俸制による労働契約ではないのであるから、この意味においても、本件において、使用者たる債務者から労働者たる債権者に対してした一方的な賃金の減額措置は、無効である。 |