ID番号 | : | 06899 |
事件名 | : | 雇用関係存在確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | キノ・メレスグリオ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 勤務場所を変更する配転命令について、配転により通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえず権利濫用には当たらないとして、右配転命令を有効とした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1997年1月27日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 13352 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | タイムズ953号180頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕 二 本件配転命令の効力 被告の就業規則には、業務上の必要がある場合は、従業員に対し就業場所の変更を命ずることがある旨の規定(八条)があり、原告が合併前のA会社に入社するに際し、勤務地を東京都渋谷区に所在する営業本部に限定する旨の合意がなされたことを窺わせる証拠はないから、被告は個別的同意なしに原告の勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限があるものというべきである。 そして、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情の存する場合は、当該転勤命令は権利の濫用になると解すべきである(最高裁判所第二小法廷昭和六一年七月一四日判決・判例時報一一九八号一四九頁参照)。 そこで本件についてみるに、前記争いのない事実等及び先に認定した事実によれば、被告は、経費削減の一環として人員整理の方策をとることにしたが、パートタイマーは優先的に、かつ、例外なく退職させる方針であったことから、本社・玉川工場の総務部経理課に所属していたBもその対象となり、本人も応諾して退職する運びとなった。ところが、一方、配送センターの統合やC部長の配置転換等により本社・玉川工場の総務部(総務課、経理課)の業務量が増大することが予想されたため、被告は営業本部でBと同種の仕事をしていた原告をBの後任に配置転換するのが合理的であると考えたというのであり、これらの事情からすれば、本件配転には業務上の必要性が認められる。 もっとも、原告は被告が当初原告及びBに対して退職勧奨したときには、二人とも退職するものと予定しており、Bの後任は必要ないものと判断していたはずであると主張するが、なるほどその時点においてはBの後任を予定してはいなかったとしても、Bが退職勧奨に応じ、原告がこれを断った時点において、改めて人員の合理的配置を検討することは十分にあり得るところであって、原告をもってBの後任に相応しいと判断したことに特段不自然な事情が見当たらない以上、この一事をもって本件配転の業務上の必要性を否定することはできない。 また、原告は、本件配置命令は、退職勧奨を拒否した原告に対する嫌がらせを目的にしたもので、その狙いは通勤不可能な本社・玉川工場への配置転換を命じることにより、原告を退職せざるを得ない状態に追い込む不当な目的でなされたものである旨主張するところ、原告に対してまず退職勧奨が行われ、これを断った翌日に本件配転の意向打診があったという事実経過などからすれば、原告がそのように受け取ったとしても無理からぬ面があり、被告において本件配転の必要性等について十分な説明を尽くしたといえるか疑問なしとしないけれども、先に認定した一連の経過に照らして、本件配転命令が原告を退職せざるを得ない状態に追い込む不当な目的でなされたものと断ずることは困難であり、他にこれを肯認するに足りる証拠はない。 更に、原告の現在の住居から本社・玉川工場に通勤するには、片道二時間を超える通勤時間を要するというのであり、独身の女性である原告が漸く入居できた賃貸の公団住宅で老後も安定した生活を続けて行きたいと強く望んでいることも、心情として理解できないわけではないが、首都圏における通勤事情に鑑みれば、片道二時間を超えるといってもあながち通勤が不可能であるとはいえないし、通勤時間を短縮するために転居することが不可能な事情があるとも認めがたい。そうすると、結局、以上のような事情があるからといって、本件配転命令が原告に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとまではいうことができない。 以上のとおり、本件配転命令について権利の濫用と解すべき特段の事情は認められないから、これを無効とする原告の主張は採用できない。 |