ID番号 | : | 06901 |
事件名 | : | 配転命令無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 銀装事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労働組合の組合長である商品管理課商品係長から物流課集品係への配転につき、不当労働行為には該当しないとした事例。 本件異動命令は労働協約中の事前協議の対象となるが、組合役員の異動であっても組合活動に影響を及ぼさない場合には、事前協議を行わない労使慣行が成立していたとして、事前協議をしなかった異動命令も有効とした事例。 年休の取得につき、労使間の協定で定められた事前の届出要件が充たされておらず、適法な時季指定ではないとしてなされた懲戒処分を有効とした事例。 年休取得をめぐるけん責処分につき、処分に先立つ賞罰委員会が開催されなかったことは、手続上の効力に影響を及ぼすような重大な瑕疵があるとは言えないとした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法39条4項(旧3項) |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行 年休(民事) / 時季指定権 / 指定の時期 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1997年1月27日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 6029 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例711号23頁/労経速報1625号23頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔年休-時季指定権-指定の時期〕 2 有給休暇取得手続について 証拠(〈証拠略〉)によれば、昭和五一年九月に被告と組合との間で締結された労働時間短縮並びに月給制に関する協定書において、有給休暇は事前届出を原則とするが、〔1〕本人の急病、〔2〕家族の急病、〔3〕両親が緊急上阪して迎えに行く場合、〔4〕世帯主で葬儀の手伝いをする場合、〔5〕休暇で旅行中、天災にて帰れない場合、〔6〕単身者が急病で電話連絡できずに欠勤したとき、〔7〕人命にかかわるような緊急突発事故が発生した場合については、当日届出の有給休暇の取得を認めるものとされていること、同様の内容は、被告において配布している新入社員のしおりにも記載されていることが認められる。 そして、原告の本件における有給休暇の取得が、右いずれの場合にも該当せず、当日届出の有給休暇取得が認められない場合であることは明白であるから、原告の本件における有給休暇の取得は、その手続に違反したものであることは明らかである。 3 以上のように、本件における原告の有給休暇の取得は、その要件がないにもかかわらず当日届出によって取得されたもので、正当な有給休暇の取得とはいえないものであるところ、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、原告の突然の休暇取得により、他の部門の従業員が残業するなどして、その穴埋めをしたことが認められ、原告の右行為により、被告の業務に支障を来たしたことは明らかである(なお、原告は、原告の休暇取得によって業務上の支障は生じなかった旨主張するが、仮にそうであったとしても、右のとおり、他の従業員らの犠牲のもとに業務上の支障が結果的に生じなかっただけであるから、原告の右行為が業務に支障を来たさなかったとはいえない。)。そして、証拠(〈人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、当時被告の業務が繁忙期にあり、休暇取得によって業務に支障が出ることを予想しながら、専らA課長を困らせるため又は同課長に対する抗議のためという理由によって、五日間の休暇を取得したことが認められるところ、原告の係長という立場を考慮すると、原告には、休暇取得の動機ないし理由において酌量すべき余地は全くないといわざるを得ない。 以上の点を総合考慮すれば、原告の行為は、就業規則第七五条二号の「就業時間中みだりに仕事を放棄したとき。」及び第七四条一号の「業務上必要な注意を怠り会社の業務に支障を来たしたもの」に該当することが認められ、出勤停止処分又は減給処分に相当すると考えられるところ、被告があえて第七三条五号(「減給処分を受けるべき者であって、その情状において特に酌量すべき事由のあるとき、または改悛の情顕著なとき」)を適用して本件譴責処分をしたことは、相当であって、これを失当と言うべき余地は全くない。 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 二 争点2について 原告は、本件異動命令及び本件譴責処分が原告の組合活動を理由とする不利益取扱いであると主張するので、検討する。〔中略〕 原告が主張するように、平成二年三月の原告の総務部への配転が原告の組合活動を理由とした嫌がらせであったこと、新人事制度の導入が原告を追い詰めるためのものであったこと、従来より被告が原告の職場の解体を目論んでいたことについては、いずれもこれを認めるに足りる証拠は存在しないし、被告が詰合せ班から製造部門に係員を応援に行かせたことが、原告の職場を解体する意図に基づくものであったことを窺わせる証拠も存在しないから、原告の前記主張は理由がない。 1 被告は、本件異動命令が配置転換を命じたものではなく、単なる部署の異動を命じたものである旨主張する。〔中略〕 本件異動命令は勤務場所の変更を伴うものではなく、職務の内容もそれほど大きく変化するものではないこと、異動の前後において職務の繁閑の程度において差がないことが認められ、また、前記のとおり、本件異動が同じ係長としての異動であって、降格を伴うものではないことを考慮すると、本件異動命令は、被告が、権利濫用に渡らない限り、その人事権の行使として自由に行い得る性質のものであるというべきである。そして、本件異動命令が不当労働行為に該当するとは認められないことは前記のとおりであり、他に本件異動命令が権利の濫用であることを窺わせる証拠は存在しない。 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕 本件異動命令は、形式的には労働協約において事前協議が義務づけられている組合役員の「職務替え」に該当すると考えられるから、本件において事前協議を経ていないことが本件異動命令の効力に影響を及ぼすか否かについて検討する。 確かに、本件異動命令は、形式的には労働協約上事前協議が義務づけられている場合に該当するが、右事前協議約款は、組合役員の異動により組合活動に影響が及ぶことを防止する趣旨に出たものであることは明らかであるところ、前記のとおり、本件異動命令は、勤務場所の変更を伴うものではなく、職務の内容もそれほど大きく変化するものではなく、異動の前後において職務の繁閑の程度において差がないことに照らせば、これにより原告の組合活動に影響を与える余地はないというべきであるから、本件異動命令につき事前協議を要求する実質的意味はないものといわざるを得ない。また、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告が平成二年三月に営業部から総務部に配置転換されたとき及び平成四年三月に総務部から商品センター部商品管理課商品係に配置転換されたときにも事前協議は行われておらず、原告又は組合からその申出もなかったこと、原告は、本件異動命令を受けた際、直ちに団交の申入れをしたにもかかわらず、事前協議の申入れをしておらず、また、事前協議がなかったことに対して抗議をした形跡がないこと、被告においては、従前から、組合役員の異動であっても、組合員としての資格や組合活動に影響を及ぼさない場合には、事前協議は行われていなかったことが認められ、これらの事実を総合すると、被告においては、組合活動に全く影響を与えない異動の場合には事前協議を行わないことが労使慣行となっていたというべきである。してみれば、本件異動命令に際し、事前協議を経なかったことは、手続上の瑕疵に当たるとはいえないのであって、本件異動命令の効力に何ら影響を及ぼさないと解すべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕 2 以上によれば、被告においては賞罰委員会の開催が必ずしも厳格に行われていたわけではなく、特に譴責処分については同委員会は開催しないことが慣例となっていたということができることに加え、原告自身が、本件譴責処分について、いったん同委員会の開催を要求しながらこれを撤回したことを考えあわせると、本件譴責処分に先立って賞罰委員会が開催されなかったことをもって、手続上その効力に影響を及ぼすような重大な瑕疵があるとは到底いえず、この点は本件譴責処分の効力に何ら影響を及ぼさないというべきである。 |