全 情 報

ID番号 06903
事件名
いわゆる事件名 東京鐵鋼事件
争点
事案概要  出向先において金品を受領し、また別会社を設立して取引きをしたことを理由とする懲戒解雇を有効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1997年1月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 18003 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1633号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由〕
 (九) 本件懲戒解雇事由となった地位利用による金員受領の存否
 以上の認定事実、すなわち、原告のA株式会社における担当職務は下請業者の選定、下請業者に対する発注及び技術指導といった下請業者に対しての比較的影響力を及ぼすことのできる地位にあったこと、本件乗用車の購入者は原告名義をもってなされており、車庫証明も原告方となっていたし、原告も本件乗用車を時折運転利用していたのであり、他方、Bは、運転免許を得ていないのに同人が本件乗用車を購入するなどということは極めて不自然であるばかりか、同人には本件乗用車を購入する動機・理由が極めて薄弱であること、本件銀行口座は原告が代表者名義となって原告の印章によって開設されており、Bが原告名義を借用したとする原告の弁解も不自然で説得力を有さないこと、そして、本件銀行口座への下請業者からの振込入金も原告のA株式会社における地位からすれば原告の関与によってなされたと考えるのが自然であり、Bの同会社における前記認定にかかる地位からは同人の関与のみによって右のような振込入金がなされたと考えることは困難であること等を総合考慮すると、原告には本件懲戒解雇事由となった地位利用による金員受領がなされたと認めることができる。
 原告は、下請業者からの金員受領はBが一存でなしたことであり、原告は全く知らなかったことである旨の供述をし、Bも同旨の証言をするところ、これらの供述及び証言は、右に述べた理由により信用できないばかりか、C社長の原告及びBに対するそれぞれの事情聴取においても原告及びBは、終始曖昧な弁解に終始していて右のような供述及び証言内容を述べておらず、原告はA株式会社宛に右の金員受領を認めたうえでの退職届書を提出しているのであるから、以上の諸点に鑑みると、原告の右供述及びBの右証言は到底信用することができない。
 そうすると、原告は、Aにおいて、建材部製造課における下請業者の選定、下請業者に対する発注及び技術指導をする職務権限を有しているところ、D、Bとともに下請業者から総額五〇〇万円以上のリベートを取得し、このうちの一部を本件乗用車の支払いに充て、その余を均等分配したというのであるから、就業規則一一三条三号及び九号に該当するということができる。
 2 別会社を設立し取引を行った背任行為
 原告がB等とともに有限会社E及び有限会社Fを設立し、有限会社EをAの取引先とし取引をなしていたことは前記認定したとおりである。
 原告は、有限会社Eの設立はG社長代行の指示によって設立されたのであり、同代行はBに対し、Eの技術指導に当たるように命じ、この命を受けたBが原告に対し同旨の命をなし、原告はこの命に従ったまでのことである旨主張するが、これは(人証略)と対比して採用することはできない。
 また、原告は、有限会社Fの設立につき、原告が設立に関与したことはないが、A株式会社の下請業者であったので原告が技術指導をした旨主張するが、この主張も右証人の主張と対比して採用できない。
 右認定事実によると、原告はA株式会社において前述した地位にありながら、右のように別会社を設立してその営業をしていたというのであるから、就業規則一一三条三号及び九号に該当するということができる。
 二 本件懲戒解雇の有効性
 以上のとおり、原告には本件懲戒解雇事由が存し、この事由は原告のA株式会社における地位・職務権限、その事由の重大さ等を考慮すると、本件懲戒解雇は相当であり、合理性を有するということができる。
 したがって、本件懲戒解雇は有効である。