ID番号 | : | 06910 |
事件名 | : | 解雇無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 西日本鉄道(福岡観光バス営業所)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 観光バス運転手が、宿泊所たる旅館で未成年の女子のバスガイドにその意に反してわいせつ行為をしたとして懲戒解雇されその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 労働基準法11条 労働基準法3章 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 風紀紊乱 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権 |
裁判年月日 | : | 1997年2月5日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 4291 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例713号57頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-風紀紊乱〕 右1認定の各事実によれば、本件行為はバスガイドに対する猥褻行為であるが、右は貸切勤務に同乗する運転士とバスガイド相互の信頼関係を阻害するとともに、バスガイドの業務一般に対する不安を増大させ、また、表面化すれば被告の名誉・信用を低下させるものと認められる。さらに、Aが当時未成年であり、特に落ち度も認められないことからすれば、酔余とはいえ、本件行為の情状は極めて重いと評価される。したがって、本件行為は就業規則六〇条四号及び一五号(五九条八号)に該当する。 また、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、被告は、運転士に対し、再三にわたって、ガイドに対する猥褻行為禁止についての指導を行っており、原告も右指導を受けていることが認められ、本件行為は右指導に反するものであるから、就業規則六〇条三号にも該当する。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 本件行為について検討するに、本件はバスガイドに猥褻行為をしたという事案の悪質性に加えて、運転士とバスガイド相互の信頼関係を阻害し、ひいては被告の名誉・信用を毀損するものであって、その責任は重いと評価できるから、解雇権の濫用ということはできず、この点に関する原告の主張は採用できない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 労働協約二〇二条は、労使協議会制度の目的について「協約の運用を円滑にし、紛議の予防調整をはかり、会社と組合相互の関係を円滑にするため」と定めているが(〈証拠略〉)、この趣旨は、労使協議会制度を人事の事前協議制として機能させ、会社と組合の関係を円滑化することにあると認められる。 そして、労使協議会への付議事項が労使の一方からの提案によって上程されるという構造をとり、決議の方法について具体的に定められていないことからすれば、右にいう労使協議会の「決定」とは、労使による意見の一致を意味するものと解すべきである。 したがって、正式に労使協議会を開くことなく行われた懲戒解雇処分であっても、その前段階として組合に対する提案がなされ、これに関する組合の独自調査、会社への質問と会社の応答など、実質的に協議が行われたと評価できる過程を経て、組合による同意がなされた場合は、右懲戒解雇に関する労使間の意見の一致を労使協議会の決定に代えたとしても、事前協議制としての労使協議会制度の趣旨に反するとまではいえず、右懲戒解雇の効力に影響を及ぼすものではないと考えられる。 これを本件懲戒解雇についてみれば、被告の組合に対する原告の懲戒解雇の提案から組合の質問、被告の回答という一連の経過は、実質的に協議が行われたと評価するに足りるものであり、最終的に組合による承認があったのであるから、右をもって労使協議会の決定に代わるものと解すべきである。 よって、右の観点からも本件懲戒解雇が無効であるとまではいえない。 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕 賞与といえども、労働協約、就業規則などの規定に従って支給が具体化されたものは労働の対償となった賃金といえるのであるが、支給するか否か、額、算定方法などが使用者の裁量に委ねられ、具体化されていない段階では未だ賃金としての性質を有していないというべきである。 これを本件についてみるに、確認書25の規定は、解雇提案中の者に対する臨時給与については労働協約及び就業規則(給与規則)に定める給与ないし賃金と別に取扱い、支給自体の有無、支給額、その算定方法等についての被告の裁量権を留保することを定めたものと解するのが相当である。 したがって、出勤禁止を命じられ解雇提案中であった原告の夏期賞与金は、未だ賃金としての性質を有するに至っておらず、確認書の定めに従って右賞与金の支給をしなかったとしても労基法九一条違反の問題は生じないと考えられる。 また、同様に右賞与金の不支給は給与の減額とはいえず、夏期賞与金の不支給処分自体が懲戒処分としての性質を帯びるものでもないから、不支給が本件行為を理由とするものであったとしても、本件懲戒解雇との間で一事不再理の問題を生じないことも明か(ママ)である。 |