全 情 報

ID番号 06911
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 神戸化学工業事件
争点
事案概要  減給処分を受けたり課長から平社員に降格され就労意欲を失った従業員が、退職届を提出したところ会社から懲戒解雇とされたため、右懲戒解雇の無効を争うとともに、自己都合で計算した退職金ではなく会社都合での退職金を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1997年2月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 10532 
裁判結果 認容,一部棄却(確定)
出典 労働判例714号48頁/労経速報1633号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 1 以上によると、原告に対する懲戒解雇の理由として認められる事実は、平成七年三月のDCAL流出事故に関する原告の措置の不適切さ(事故発生を被告代表者に対し報告しなかったこと、原告が被告本工場の作業員にのみ命じて除去作業をしたため、本工場の再開が遅れ、一週間を要したこと、右事故により、排水路に流出してDCALの不良品が発生したにもかかわらず、部下をかばう気持もあって、右事実を正確に報告せず、その代わりに、当時存した在庫商品を加えて計上し、生産報告をしたこと)のみである(なお、前記認定のとおり、原告が度々にわたり生産報告書の提出を懈怠するなどした点も、管理職としての立場を重視するとき、被告主張の懲戒解雇事由に該当する余地がないとはいえないが、この点を考慮しても、以下の結論に変わりないというべきである。)。しかるに、これにより被告の被った損害の具体的内容は必ずしも明確なものではないばかりでなく、右のDCAL流出事故に関する原告の措置の不適切さや、前記認定の原告のその他の度々にわたる報告懈怠等の事実は、専ら原告の管理職たる製造課長としての適格性の不存在に起因する(一従業員としてのそれに起因するものではない。)というべきところ、原告本人尋問の結果、被告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、そもそも、右昇進の当初から製造課長としての適格性を有していたか疑問であることが窺え、この点は、被告による、原告の課長職への昇進措置自体に問題があったというべき余地があるし、被告は、原告の右適格性に疑問を抱いて、平成七年九月七日、原告を、製造課長から平社員に降格したのであるから、これにより、原告は、実質的には、既に、被告により相応の措置を受けたというべきである。したがって、被告が、右に加えて、さらに追い打ちをかける形で、懲戒解雇により、原告の被告の従業員(平社員)としての地位まで奪って退職金を受給することを不可能ならしめることは、管理職としては適格性を欠くとしても一従業員レベルで見た場合の原告の一〇年余の功労を全く無に帰せしめるものであって、原告にとって苛酷にすぎるというべきであることや、右懲戒解雇は、原告が退職届を提出したその日に突如としてなされ、懲戒解雇の通知書には就業規則五六条一〇号など、以上の懲戒事由とは無関係な懲戒条項が記載されているのに、具体的な懲戒事由が全く明らかにされていないなどの前記認定の各事情に徴すると、右懲戒解雇の意思表示が真実、原告に対する過去の事跡に対する懲戒として行われたものであるかは甚だ疑わしく、これらに鑑みるとき、被告の原告に対する懲戒解雇は、相当性を欠くというべきであって、結局、右懲戒解雇は、懲戒権の濫用に当たり無効であるというべきである。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 原告の取得すべき退職金の金額について検討するに、なるほど、被告による懲戒解雇が無効であることは前記のとおりであるが、原告が減給処分を受け、製造課長から解任されるなどしたために被告での就労意欲を喪失して、平成七年九月一三日、自ら退職届を提出したものであって、たまたま、同日に被告が原告に対して懲戒解雇する旨の意思表示をしたことの故をもって、右退職が「会社の都合により解雇又は退職するとき。」(被告賃金規則二六条一項四号)となるものではないことは明らかである。