ID番号 | : | 06912 |
事件名 | : | 賃金請求事件/損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 中央スポーツクラブ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社に無断で郵便貯金口座の届出印を変更し、六五万円を引き出したことを理由とする懲戒解雇を有効とした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1997年2月12日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 1424 平成8年 (ワ) 3313 |
裁判結果 | : | 認容,一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1646号13頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 3 懲戒解雇事由の存否について判断する。 (一) 右2で認定したところによれば、原告は、六月の協議において、従来から任されていた営業業務の他に、被告に代わって本件クラブの日常業務全般及びその遂行に必要な会計管理の権限を与えられていたことは認められるが、郵便貯金口座の届出印の変更の権限まで与えられていたと認めることはできない。また、Aが右届出印の変更の事実に気がつくや、直ちに原告に苦情を述べるとともに、対策を講じていることからすると、右届出印の変更等についてAが承諾をしていたと認めることもできない。したがって、原告は、被告に無断で郵便貯金口座の届出印を変更し、同口座から六五万円を引き出したものといわなければならない。 しかし、右六五万円は、右2(七)で認定したとおり、平成五年一〇月一日にB口座から引き出した三一万円と本件クラブの手持現金を合わせた上、同月五日に同年九月分の賃金として各従業員の口座に振込んだことが認められ、費消したものと認めることはできない。 (二) 原告が、被告の承諾なく無権限で郵便貯金口座の届出印の変更をしたことは、従業員として許されるものではないし、右口座から引き出された六五万円の使途は、右認定のとおり、本件クラブの従業員の平成五年九月分の賃金であるから、その限度では本件クラブにとって必要な支出ではあるが、経営者の意思に反して支出することが違法であることには変わりがない。 そうすると、原告は、権限が与えられていないにもかかわらず、被告に無断で郵便貯金口座の届出印を変更し、その変更後の印鑑を使用して右口座から六五万円を引き出したものであり、原告の右行為は、就業規則四五条(7)に該当するものというべきである。 4 次に懲戒権の濫用の有無について判断する。 原告は、六月の協議以降、本件クラブの日常業務全般及びその遂行に必要な会計管理の権限を与えられたものであるが、従業員である以上、経営者である被告の明示、黙示の意思に反することが許されないことは当然である。けだし、経営者は、対外的、対内的に責任を負う者であり、結果はどうあれ、経営者の意思に反する従業員の行為を容認したのでは、経営の責任を果たすことはできないからである。原告の行為は、経営者である被告の権利を侵害したものであるといわなければならない。以上の観点からすれば、郵便貯金口座の届出印を無断で変更し、同口座から無断で六五万円を引き出した原告の責任は重大であり、六五万円を自己のために費消したという事実は認められないが、本件懲戒解雇が懲戒権を濫用したものということはできない。 |