ID番号 | : | 06913 |
事件名 | : | 貸金請求事件/退職金反訴請求事件 |
いわゆる事件名 | : | たち吉・たち吉ライフサービス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社の販売マニュアルに違反した取引行為を行ったことを理由に退職金を二分の一に減額した措置につき、従前の功労を抹消するほど著しく信義に反するとはいえないが、その功労を減殺するに足る重大な行為であり、退職金の半額支給は違法ではないとした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3の2号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限 |
裁判年月日 | : | 1997年2月14日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 4846 平成7年 (ワ) 8189 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1642号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕 3 本件退職金減額措置の効力について (一) 退職金は、多分に功労褒賞的性格を有することも否定できないから、退職金規定において、懲戒解雇事由がある場合に退職金の全部又は一部を支給しないこととする旨を定めることも許されると解すべきであるが、退職金が一般に賃金の後払い的性格を有することに鑑みると、退職金を支給せず、又は減額することが許されるのは、従業員に、その功労を抹消又は減殺するほど著しく信義に反する行為があった場合に限られると解すべきである。 したがって、この点に関する被告の主張は採用しない。 (二) 右見地から、本件における被告の行為が、その功労を抹消又は減殺するほど著しく信義に反する行為といえるか否かについて検討する。 前記認定のとおり、被告は、平成五年九月頃、販売マニュアルに定められている手続を踏むことなく、原告X会社に対しては直販である旨虚偽の報告をしたうえ、A会社に対し斡旋販売取引を開始したこと、平成五年一一月頃から、従来から顧客であったB会社に虚偽の事実を述べてA会社を経由した取引とさせ、さらにCら六名の顧客についてもA会社を経由させる取引とし、その結果原告X会社の損失において第三者であるA会社を利得させたこと、B会社及びCら六名に対する売上金をいったん自己の銀行口座に入金させていたこと、上司の承諾が得られないことを自認しながら、高額の進物をA会社に対して行い、複雑な帳簿処理を行ってこれを隠蔽したことが認められるのであって、これら一連の行為は、原告X会社の損失において第三者であるA会社を利得させ、又は自己の利益を図ったものであり、営業社員たる従業員として、原告X会社に対する重大な背信行為に該当するといわざるを得ない。 もっとも、被告の行為により、原告X会社に生じた実損は八万円強に過ぎないこと、被告は右実損を全額賠償したこと(弁論の全趣旨)、被告は、一時的に売上金を流用したことはあっても、それ以上に自己の利を図る行為に出ていないこと、被告の原告X会社における勤続年数は二一年に及ぶのに対し、前記背信行為が見られたのは、最後の約一年強の期間に過ぎないこと等を考慮すると、被告の右行為は、従前の功労を抹消するほど著しく信義に反する行為とまではいえないというべきであるけれども、その功労を減殺するに足りる重大な行為であることは明かであり、右観点から見るとき、退職金の半額を減ずることが、相当性を逸脱した違法なものであるとはいえないというべきであるから、原告X会社による本件退職金減額措置は有効であると解すべきである。 二 争点2について 以上のとおり、本件退職金減額措置は有効であると解すべきであるから、被告が原告X会社に請求することのできる退職金の額は三五〇万九六六七円であり、また、被告が、右退職金債権と被告の原告X会社に対する貸金残債務五六四万六七五〇円とを対当額で相殺したこと(本件相殺の意思表示)は当事者間に争いがない。したがって、被告の原告X会社に対する退職金債権は、右相殺の意思表示により消滅したというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、争点2に関する被告の主張は理由がない。 |