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ID番号 06924
事件名 慰謝料請求事件/損害賠償請求反訴事件
いわゆる事件名 旭川(代表取締役)セクシュアルハラスメント事件
争点
事案概要  代表取締役による女性従業員に対する身体接触などのセクシュアルハラスメントが人格権を侵害し不法行為を構成するとして、代表取締役及び会社に損害賠償の支払を命じた事例。
参照法条 民法44条1項
民法709条
民法710条
商法261条3項
商法78条2項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 1997年3月18日
裁判所名 旭川地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 296 
平成5年 (ワ) 281 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例717号42頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 六 不法行為の成否及び損害について
 1 被告Yの関係
 (一) これまで検討したところによれば、原告主張(一)ないし(九)の各事実が認められ、原告は、そのうち少なくとも(二)ないし(四)、(六)、(八)及び(九)の各行為の際、被告Yに当該行為をやめるよう言ったり、その場から逃れたりするなど、被告Yの行為が原告にとって不快であり、これを許容する意思のないことを、言葉又は態度によって明確に示したことが認められ、その余の行為についても、これらと別異に解すべき理由はないから、すべての行為が原告の意思に反するものであったと認められる。
 (二) (二)ないし(四)、(六)、(八)及び(九)の各行為は、原告に対する身体的接触を内容とするものであるが、いずれも、その態様自体に性的意味合いが認められるものであり、相手方の意思に反してこれを行うことが許容されるものでないことは明らかというべきところ、右(一)で検討したところによれば、被告Yは、これらの行為が原告の意思に反するものであることを認識しつつこれを行い、継続したことが認められる。
 また、被告Yは、被告会社の代表取締役として、従業員の就労環境を維持改善すべき立場にあるというべきところ、女性従業員が右のような行為を受けた場合、精神的に就労を継続すること自体が困難となる場合のあり得ることを十分予見しえたといわなければならない。
 そして、原告供述類によれば、原告は、被告Yの右行為によって、羞恥、不安、嫌悪などの精神的苦痛を経験すると共に、被告会社での就労を継続して被告Yの右行為を甘受するか、被告会社を辞めるかのいずれかを選択せざるを得なくなり、最終的に後者を選択したことが認められる。
 そうすると、被告Yの右各行為は、原告の、性的領域における人格の尊厳を故意に侵害する不法行為にあたると同時に、原告の雇用関係継続に対する権利をも不当に侵害する行為というべきである。
 (三) これに対し、(一)、(五)及び(七)の各行為は、原告に対する直接の身体的接触を伴わないものである。
 しかし、(一)の行為は、暗に性的関係を要求する趣旨と解しうるものであり、(五)の行為は、その場の状況及びそれ以前の被告Yの不法行為に照らし、原告に対し、自己の性的自由、身体的自由が侵害される危険を感じさせるに十分なものと解されるから、前記(二)で検討したところと同様の理由により、不法行為の成立を認めることができる。
 また、(七)の行為は、夜、車で待ち伏せをした上、会いたかった旨を告げたというものであるが、前記二2(四)で認定したとおり、原告がその翌日、このことを特にA常務に訴えたことが認められることからも、原告にとって重要な意味を持つものであり、原告の立場においては、右のような行為は被告Yと特別な関係又は親密な関係にあることを同人から強要されることにほかならず、それ以前の被告Yの不法行為等があった経緯に照らすと、やはり、原告の性的自由の侵害にあたるというべきであるから、不法行為の成立が認められる。
 2 被告会社の関係
 (一) (一)ないし(八)の各行為は、原告が、被告会社の従業員として、代表取締役である被告Yの指示に基づき、打合せ、建物や現場の見分、営業活動等、被告会社の業務に従事する過程で、被告会社の社長室、自動車の車内、第三者の別荘あるいは改築中の被告Yの自宅等において、被告Yと二人だけになった状況を利用して行われたものである。
 また、原告供述類により認められる前記一2の事実によれば、(一)ないし(五)、及び(七)の各行為の場合、被告Yが、被告会社の代表取締役として原告に指示命令することのできる立場にあることを利用し、いわば被告会社の業務に藉口して、右のような状況を故意に作出したものと推認される。
 そうすると、(一)ないし(八)の各行為は、被告会社の代表取締役である被告Yが、その職務を行うにつきなした不法行為というべきであるから、被告会社は、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により、右の各不法行為によって原告に生じた損害を賠償すべき義務を負う。
 (二) (九)の行為は、原告の自宅で行われたものであり、厳密には、原告が被告会社の業務に従事する過程でなされたものではない。
 しかし、原告供述類によれば、原告は、(一)ないし(八)までの各行為によって精神的苦痛を経験し、最終的に、(九)の行為によって被告会社を辞める決意をしたとされるのであるから、原告において、右各行為について性質上の差異の認識のないことは明らかである。
 また、原告と被告Yとの関係は、被告会社の従業員と代表取締役であるという以外にはなく、突然原告の自宅を訪れた被告Yを、原告が室内に招き入れざるを得なかったのは、右の関係が前提となっていることは明らかであるから、(九)の行為のみを、(一)ないし(八)の各行為と別異に解すべき理由はない。
 (三) したがって、被告会社は、その代表者である被告Yの前記不法行為によって原告に生じたすべての損害について、責任を負うというべきである。
 3 損害
 (一) 原告主張(一)ないし(九)の各事実が、性的尊厳という重要な人格的権利に対する侵害であること、これらが自動車や別荘という事実上の密室内で、原告と被告Yとが二人だけになった状況で行われたこと、原告が、これを止めるようにとの意思を明らかにしたにもかかわらず、被告Yはこれを繰り返したこと、会社の代表取締役と従業員という立場が利用され、会社の業務に従事する過程で、あるいはこれに藉口してなされたため、原告としては同行等を拒みえず、被告乙山の行為を甘受するか、被告会社を退職するかを選択せざるを得なかったこと、原告は、被告会社で特に問題なく仕事をしており、仕事を続けることを希望していたにもかかわらず、不本意な形で退職せざるを得なくなったことなど、本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告が、前記各不法行為によって受けた精神的苦痛を金銭に換算するならば、二〇〇万円が相当であると認められる。