ID番号 | : | 06931 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 野本商店事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社が昇給を実施しないことにつき、労働者らがこれに同意をしていたとした事例。 退職金額につき、「中小企業退職金共済法による積立額と、その年の経済状況を考慮した額とする」旨の規定に基づき、五〇万円の支払を命じた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法24条1項 労働基準法89条1項3号 労働基準法89条1項3の2号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 |
裁判年月日 | : | 1997年3月25日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 4060 |
裁判結果 | : | 認容,一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例718号44頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西國友・ジュリスト1119号151~154頁1997年9月15日 |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕 右認定事実によると、本件給与・退職金規定の施行された当時の被告の営業は盛業状況にあって、この規定のとおりの昇給を実施し、賞与を支給することも可能ではあったが、その後の被告の業績の悪化、とりわけ、昭和五六年一一月二〇日の手形不渡事故発生の危機に直面して以降の業績は悪化の一途を辿るようになり、このようなことから右規定のとおりの昇給の実施及び賞与の支給は困難な状況となり、このような状況は一向に改善されず、現代表者が経営を引き継いだ以降は昇給の実施を全くしないようになったばかりか、賞与についても僅かの支給に止まっていたというのであり、従業員は、このような被告の経営状況を知っていたためと考えられるが、被告の右のような措置に対し何らの要求等をしなかったというのである。 そうすると、原告をも含めた従業員全員は、被告が右規定のとおりの昇給の実施をしないこと及び賞与の支給をしないことを暗黙のうちに承認していた、すなわち、黙示の承諾をしていたということができる。 したがって、この点に関する被告の主張には理由があることとなるので、原告の請求は理由がない。 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 本件給与・退職金規定によると、退職金は勤続二年以上の社員に対し支給することとなっているのであるから、被告は原告に対しても退職金を支給する義務があるというべきである。 そこで、右支給すべき退職金額について検討するに、右規定によると、最低「政府で実施する中小企業退職金共済法(案)、東京都商店街連合会(案)給与を入社後毎月積立てたものと、その年の経済状況を考慮してこれを支給する。」と定めているのであるから、支給退職金額は、右積立金と被告が経済状況を考慮したうえでの決定金額ということとなる。 そうすると、右積立金額は、現実の積立金額を意味するものと解すべきであるから、中小企業退職金共済事業団に積み立てた額は三一万一八三五円であり、東京都商店街連合会の積立てには未加入であるというのであるから、被告は原告に対し、この積立金三一万一八三五円の支払義務があるということができる。 しかし、右支給金額のうち「その年の経済状況を考慮して」の部分については確定金額は被告の算定にかかるものと解すべきであるから、この算定のない現段階においては原告は被告に対し自ら算定した金額を請求する根拠を欠く。 もっとも、被告は、中小企業退職金共済事業団に積み立てている分三一万一八三五円と現在の経済状況及び被告の経営状況を考慮した額とを合わせて支給する用意があること、この額は五〇万円が相当であると答弁しているので、被告は原告に対し、五〇万円の範囲内での退職金を支給する義務のあることを自認しているということができる。 |