ID番号 | : | 06937 |
事件名 | : | 賃金仮払等仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | センエイ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | A会社と業務請負契約を締結しているB会社に採用されてA会社の工場で働いていた労働者とA会社との間の黙示の労働契約の成否につき、両者の間に使用従属関係があり、賃金は実際上はA会社が決定しており、出退勤の管理等も実際的にA会社が行っており、労働条件の決定もA会社が行った事例があり、両者間には、黙示の労働契約が成立していたとし、B会社の解散に伴いA会社に賃金の仮払いを命じた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法623条 民法632条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 成立 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟 |
裁判年月日 | : | 1997年3月28日 |
裁判所名 | : | 佐賀地武雄支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成8年 (ヨ) 18 |
裁判結果 | : | 認容,一部却下 |
出典 | : | 労働民例集48巻1-2号133頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 橋本陽子・ジュリスト1141号190~192頁1998年9月15日 |
判決理由 | : | 〔労働契約-成立〕 二 一般に、労働契約は、使用者が労働者に賃金を支払い、労働者が使用者に労務を提供することを基本的要素とするのであるから、黙示の労働契約が成立するためには、社外労働者が受入企業の事業場において同企業から作業上の指揮命令を受けて労務に従事するという使用従属関係を前提にして、実質的にみて、当該労働者に賃金を支払う者が受入企業であり、かつ、当該労働者の労務提供の相手方が受入企業であると評価することができることが必要であると考えられる。 そこで、前記一の各事実を前提に、このような意味での債権者らと債務者との間の労働契約が成立していたか否かを判断するに、前記一の(三)、(四)の事実によれば、債権者らが債務者の事業場である伊万里工場において債務者から作業上の指揮命令を受けて労務に従事するという使用従属関係が存在していたというべきであるところ、債権者らを含むB会社の従業員の賃金に関しては、それぞれ定められた基本給に各種手当を加え、社会保険料等を控除して算出されているところ(甲二三から六〇まで)、前記一の(二)に認定のとおり、債務者は、B会社に対し、毎月末に前月分の出来高に応じて、消費税相当分三パーセントを上乗せして、その請負代金を支払うこととされていたが、右出来高は、特段の事情のない限り、B会社の従業員が従事した時間に応じて一定量の仕事が完成したものとみなして右金額を算定しており、現在までに右特段の事情があるとして右算定方法以外の方法が用いられたことはなかったというのであって、その算定方法自体及び具体額(実績)を明確に示す資料はないものの、その請負代金は、基本的に、作業に従事した労働者の人数と労働時間とで算出される債権者らを含むB会社の従業員の受ける賃金の総額と直接関連するものであることを推認することができる上、その額は、実際上債務者によって決定されていたと評価することができ、また、債権者らの労務提供の相手方に関しては、前記一の(四)に認定のとおり、債権者らに対する作業上の指揮命令及び出退勤の管理等は、実質上、債務者が行っていたということができる上、債権者らの配置や職場規律の適用等の労働条件の決定に関しても、B会社がこれらに関する権限を保持していたという明確な資料は見当たらず、むしろ、これを債務者が行っていたというべき事例があることを裏付ける資料も存在する。 これらの事情に加えて、前記一に認定のとおり、B会社(当初は、C個人)は、株式会社D工務店と別組織であって、債務者伊万里工場における債権者らの作業について他に実績はなく、また、他企業との間の業務請負契約ないし他企業への労働者派遣の実績もなく、むしろ、債務者のみとの関係でB会社が設立された経緯があること、債権者らとB会社との間の本件業務請負契約について契約書等の書類は何ら作成されていないこと、タイムレコーダーの同一性を含め、出退勤時間や休暇の管理及び現実の作業についても、その大部分が債務者の従業員及び株式会社Eの従業員と混在ないし共同作業によって行われており、タイムカードのゴム印部分を除いて、作業服等から債権者らを他の従業員と外形的に区分することはできず、職場規律及び福利厚生面でも、基本的には、他の従業員と区別されておらず、その作業に必要な材料、資材等もB会社が提供するものではなかったこと、さらには、債権者らによる組合結成及び団体交渉並びにB会社の解散に至る経緯等の諸事情を併せ考えると、むしろ、少なくとも当初から第二工場で働いていた債権者らとの間では、債務者としては、当初から、B会社をして供給又は派遣させた労働者を使用してその労務の提供を受け、これに対し、B会社を通じて賃金を支払う意思を有し、債権者らとしても、債務者の指揮命令の下これに対して労務を提供し、その対価として賃金を受け取る意思があり、したがって、実質的にみて、当該債権者らに賃金を支払う者が債務者であり、かつ、債権者らの労務提供の相手方が債務者であると評価することができるから(なお、債権者Fについても、当初の職種及び配転の経緯からして同様である。)、両者間には、各債権者らの債務者工場における就労開始の時点で、黙示の労働契約が成立したものと、一応、認めることができるというべきであって、これに関しては、右一の(五)の事情は認められるものの、前記認定の就労の実態等の事情に照らすと、賃金の支払い及び社会保険等の事務の取扱いに関する担当者の形式上の地位や、債権者らの福利厚生の一部についての各事情を、右評価を妨げる事情として重視することはできないといわざるを得ない。 〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕 三 ところで、前記一の各事実及び証拠(甲七五から八二まで、甲八四、甲八六から九八まで、甲一〇〇から一〇五まで、甲一〇七から一〇九まで、甲一一一から一一三まで)によれば、債権者らは、いずれも平成八年九月当時、それぞれ別表(三)記載のとおりの各賃金の支払を受けており、そのすべて又は大部分を各本人又はその家族の生活費としていた労働者であって、債務者からその従業員たる地位を否定されて、右賃金の支払を受けることができないとすれば、それぞれ生活が困窮するなど著しい損害を受けるおそれがあると認められるから、保全の必要性は、各債権者らが債務者の従業員たる地位にあることを仮に定め、毎月末日限り別表(一)記載のとおりの各金額の支払を受ける限度においてこれを認めることができるが、その終期は本案の第一審判決言渡しまでとすれば必要十分であるというべきである。 |