全 情 報

ID番号 06957
事件名 障害補償給付支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 東大阪労働基準監督署長(北港タクシー)事件
争点
事案概要  タクシー運転手の事故による後遺障害につき、症状固定の診断から一年四か月後に発症した頚椎後縦靭帯骨化症にみられる神経症状と事故との間に相当因果関係があるとした事例。
 本件傷害については、障害等級第九級七の二に該当するとして、第一二級一二に該当するとした処分を取り消した事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法15条
労働基準法施行規則別表第2
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1997年6月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (行ウ) 100 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例721号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 五 本件災害と原告の後遺障害との相当因果関係について
 1 頚椎後縦靭帯の骨化について
 レントゲン上の頚椎後縦靭帯の骨化については、前記三1、四1によれば、骨化自体は、外傷によって進行するものでなく、原告の身体的素因に基づくものであるので、本件災害との間に、因果関係を認めることはできない。
 2 頚椎後縦靭帯骨化症の発症による頚部の運動制限等の神経症状について
 前記二ないし四(ただし、四5を除く。)によれば、原告には、本件災害以前から頚椎後縦靭帯の骨化が進行し、脊柱管の狭窄により脊髄や神経根が圧迫され、神経症状を起こしやすい状態にあったが、未だ発症しておらず、原告は通常のタクシー運転業務に従事していたところ、本件災害による衝撃によってその症状が顕在化し、頚部運動制限、頚部痛、上肢のしびれ、四肢の疼痛、手関節及び足関節の機能障害等の神経症状が発現したものであり、本件災害と右神経症状の発症との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 六 原告の障害等級について
 前記二ないし五によれば、原告には、本件災害によって、頚部の運動制限、頚部痛、肩関節の有痛性の運動制限、上肢のしびれ、四肢の疼痛、手関節及び足関節の機能障害等の神経症状が発現し、加療の結果、上肢のしびれ、四肢の疼痛、手関節及び足関節の機能障害はほぼ消失し、低下していた握力も回復し、その症状は軽快したものであるが、前記四の医師らの所見、特に、本件処分の直前に作成された前記四4の大阪労働基準局調査官Aの平成三年七月二二日付け障害等級調査書(〈証拠略〉)によれば、本件処分当時、原告の障害としては、頚部の可動範囲が正常可動範囲の二分の一以下に制限されていたこと、両肩関節の可動範囲に制限があり、特に左肩関節の可動範囲が正常可動範囲の四分の三以下に制限されていたこと、階段を下りるときの右足痛、頚部痛、頚部の運動時痛が存したことが認められ、その内容、程度及び右障害は頚椎後縦靭帯骨化症という脊髄の障害に基づくこと等を総合的に勘案すると、本件処分当時、原告は、中程度以上の労働に従事することは不可能で、軽労働のみが可能であり、その後遺障害は「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」であって、労災保険法施行規則の障害等級第九級七の二に該当するというべきである。
 これに対し、被告は、頚椎後縦靭帯骨化症に見られる神経症状について、B医師の平成四年一二月一六日付け意見書(〈証拠略〉)、C医師の平成二年五月二八日付け診断書(〈証拠略〉)、地裁事件において平成元年九月七日に実施された証人尋問における同医師の証言(〈証拠略〉)は、いずれも頚椎後縦靭帯骨化症に見られる神経症状の残存については否定的であることから、加療の結果、神経症状が概ね消退したものである旨主張する。
 しかし、前記四によれば、原告に残存する障害の状態について、右C医師の所見は、原告には、頚部の運動制限及び疼痛、肩関節の有痛性の運動制限、右下肢の疼痛が認められ、頚椎後縦靭帯骨化症による麻痺がはっきりと現れているわけではないが、頚椎後縦靭帯骨化症の素因を有する者が追突事故等外傷を受けた場合に同様の症状を呈する者は多く、その障害の程度は、一般事務職で考えると、軽労働しか従事できず、強いていえば半分の労働能力であるというものであり、本件処分後に作成されたB医師の右意見書も頚部の運動制限、肩関節の運動制限と疼痛、右下肢の疼痛が残存していることを肯定しているのであって、右医師らの所見が頚椎後縦靭帯骨化症に見られる神経症状の残存について否定的であるとは認めることができず、本件処分の前後を通じ、神経症状が消退したということはできないので、被告の右主張は採用することができない。
 また、B医師は、原告の障害等級を第一二級と意見する(〈証拠略〉)が、右意見は、原告の頚部の運動制限が本件災害によるものでないことを前提とするものであって、前提を異にするので、採用することができない。
 七 以上によれば、本件災害により原告に残存する障害は、労災保険法施行規則の障害等級第九級七の二に該当するというべきところ、右障害等級第一二級一二に該当するとしてした本件処分は違法であるので、取り消されるべきである。