全 情 報

ID番号 06962
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 葉山国際カンツリー倶楽部事件
争点
事案概要  当初期間の定めなく雇用され、途中から一年間の期間を定められ、更新されてきた場合の雇止めにつき、本件では実質的に期間の定めのない雇用契約が存続していたとし、本件雇止めは解雇と同視すべきものであり、ビラ配布等を理由とする雇止めは解雇権の濫用にあたるとした事例。
 仮処分につき、賃金相当額の仮払いは命じたが、労働契約上の権利を有することの保全の必要性を否定した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1997年6月27日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 平成9年 (ヨ) 184 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労働判例721号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 右の事情に鑑みると、債権者は形式上は一年ごとの雇用契約となっていたものの、右契約は反復して更新されて従前の期間の定めのない雇用契約が継続するのと実質的に異ならない状態となっていたのであり、しかも、債権者は平成八年四月一日に任期を一年間とする班長に任命されている(債務者の平成九年三月二七日付け準備書面)ことを考慮すると、右雇用契約は更新を当然の前提とするものであって、債務(ママ)者が期間満了後も雇用を継続すべきものと期待することに合理的理由があると認められ、債務者の雇用契約の更新拒絶は、実質上解雇と同視されるから、本件の雇い止めについては、解雇が許される場合と同等の事由の存在が必要というべきであり、右の事由の存在が認められないときは、解雇権の濫用として、右雇い止めは無効というべきである。〔中略〕
 (三) 以上のとおり債権者に懲戒の事由に当たる行為があったとの債務者の主張は理由がない。なお、債務者は、本件において、雇い止めの正当な理由として、債権者にいわゆる通常解雇の事由があったとの主張をしていないが、この点について若干付言する。本件に顕れた事情によると、債権者は、正邪の区別をはっきりさせ、正しいことは正しい、悪いことは悪いとはっきり物をいう性格であることが窺える。したがって、それだけに、他の者の目には協調性に問題があると映ったり、他との融和に欠けると受け取られたり、感情的な言動があると評される場合もあるやもしれないところであるが、仮に、そのような事情が認められたとしても、そのことのみでは債務者の業務が阻害されたり、債権者がキャディとして不適格であると認むべき事情がない限り、普通解雇の事由ともなし得ないものである。
 3 よって、債務者がした債権者に対する雇い止めは、その正当な理由を欠くものであって、解雇権の濫用というべく、無効である。したがって、債権者と債務者との間の雇用契約は、有効に存続しているものというべきである。
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 三 保全の必要性
 債権者は、夫及び長男と同居し、三人で生計を一にしているが、長男(資格試験受験勉強中)及び二男(二二歳)は無職で、夫の月収も手取りで二五万円程度であることが認められる(〈証拠略〉)から、本案判決の確定を待っていては償うことのできない損失を被るおそれがあり、賃金の仮払いの必要性が認められる。
 上来説示のとおり、債務者による本件雇い止めは無効であり、債権者と債務者との間の雇用契約は有効に存続していると認められるが、Aの陳述書(〈証拠略〉)に、「私はこのような部下は今後、就労上、又他の同僚にも良い影響を与えないものと考え、契約期間満了時に退職してもらおうと考え、その旨B支配人に報告したものであります。」と述べられていることを考慮すると、債務者による本件雇い止めは、債権者とAとの間の大井の事故の処理をめぐるトラブルを決定的動機としてなされたものと推認されるところ、Aが債権者の直接の上司であることを考えると、債権者が雇用契約上の権利を有することを仮に定める旨の仮処分命令を得て現実に就労するとなると、労働の現場に困難が生ずる虞を否定し難いこと、右仮処分命令はもともと債務者の任意の履行を期待するものにすぎないこと、労働者の最も重要な権利は賃金請求権であるところ、賃金相当額の仮払いが命ぜられてこれが保全されていること等の事情を考慮すると、労働契約上の権利を有することを仮に定める旨の仮処分については、その保全の必要性を否定するのが相当である。