全 情 報

ID番号 06966
事件名 地位確認等請求事件/雇用関係存続確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人梅檀学園(東北福祉大学)事件
争点
事案概要  大学の専任講師の職にある者が、無断欠勤、教授会欠席、研究室の移転拒否、マスコミとの接触、大学に対する中傷文書の投書等を理由に、臨時教授会で、教授会出席停止処分、講義担当停止処分を受けたのに対して、教授会の構成員であること及び講義を行う地位を有することの確認等を求めた事例。
参照法条 日本国憲法23条
労働基準法89条1項9号
労働基準法3章
労働基準法11条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 二重処分
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 1997年7月15日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 722 
平成2年 (ワ) 395 
裁判結果 認容,一部棄却(控訴)
出典 労働判例724号34頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 憲法二三条は、大学における学問の自由を保障するために、大学における研究者の人事等に関して、いわゆる大学の自治をも保障する趣旨の規定であると解されるところ、裁判所も国家機関の一つである以上、研究者の人事等大学の自治に関わる事項については、大学における自主的判断を尊重すべき場合があるということができる。もっとも、裁判所の審査がどの範囲及び限度まで及ぶかは、当該事項が大学の自治に関わる程度と当該事項において個人の受ける不利益の大きさとを比較して決するのが相当というべきである。
 この点、本件懲戒解雇は、原告の本件大学における教職員としての地位自体を奪う処分であるから、本件大学内部における人事の問題にとどまるものとはいえないこと、被処分者たる原告にとっては、雇用契約上の地位及び権利のすべてを奪われる重大な不利益処分であることから考えると、裁判所は、被告法人が懲戒解雇権を行使する法的根拠の存在、本件懲戒解雇の理由とされた事実の存在、右事実が懲戒解雇事由に該当すること、及び、本件懲戒解雇の手続の適正について、大学の自治が関わらない場合と同様の審査及び判断を行うのが相当というべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-二重処分〕
 本件懲戒解雇の理由とされる事実のうち、本件各停止処分の理由とされた事実については、原告は、それらの事実を理由に、教授会出席停止及び講義担当停止という不利益処分を現に受けているのであるから、一事不再理の原則から考えて、再び同じ事実を取り上げて本件懲戒解雇の理由とすることは許されないものといわなければならない。なお、後記のとおり、本件教授会出席停止処分は、原告の行為に対する秩序罰としてのみ行われたものであるということはできないが、少なくとも、本件教授会出席停止処分の理由として、原告の秩序違反行為が挙げられている以上、原告の行為に対する秩序罰として行われた側面もあることは明らかであるから、一事不再理の原則が働くことに変わりはないものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 (2) 就業規則六〇条一〇号の「数回訓戒、懲戒を受けたにもかかわらず、なお改悛の見込みがないとき」という規定の効力について判断する。
 この点、右規定が、反省をしないことそれ自体を懲戒事由とする趣旨であれば、処分を受けた者が処分を不服として争うこと自体を否定することとなり、また、過去に懲戒を受ける理由となった事由を再度問題とする趣旨であれば、一事不再理の原則に反することとなり、いずれも不合理であるから、右規定は、過去に懲戒を受ける理由となった行為と同様の行為を反復して行い、その情状が特に重い場合に、懲戒解雇事由とすることを定めたものと解すべきである。したがって、就業規則六〇条一〇号の定めは、右の限度で、本件懲戒解雇の根拠となるものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 (3) 就業規則六〇条一二号の「作業能率を阻害したとき」とは、懲戒解雇という最も重い懲戒処分の事由とされていることから考えると、被告法人の業務に重大な障害を生じさせた場合に限るものと解すべきである。
 この点、一般に、大学の教員は、大学の一般職員とは異なり、研究を行う場所及び時間について必ずしも厳格に拘束されるものではないといえること、(証拠・人証略)の証言によれば、本件大学の教員の中には、出勤すべき日のうち四〇ないし六〇パーセント程度しか押印を行っていない教員も少なくなかったと認められることから考えると、被告法人において、教員の出勤状況を厳密に把握しなければ、その業務に重大な影響が生じたとまでは認め難い。したがって、原告が出勤カードに何日分かをまとめて捺印していた行為が、就業規則六〇条一二号に該当するということはできない。〔中略〕
 (二) 無断欠勤問題〔中略〕
 原告は、昭和六二年三月二四日から同年四月六日までの間、実家の寺の手伝いのため帰省したこと、後記のとおり、原告は、昭和六一年の同時期にも、同じ理由で帰省したことから考えると、原告の出勤カードに捺印がない期間のうち、昭和六三年三月二四日(木)から同年四月七日(木)までの期間、及び平成元年三月二四日(金)から同年四月八日(土)までの期間については、原告が、実家の寺の手伝いのために帰省して、本件大学を欠勤したことが推認される。原告の右欠勤は、本件大学外で研究を行う等の理由によるものではなく、実家の寺の法事等を手伝うためという私的な理由によるものであって、実家の寺の法事等を手伝う緊急の必要性があったとも認められないから、正当な理由による欠勤には当たらないことは明らかである。したがって、原告の右欠勤は、就業規則六〇条二号の「正当な理由なしにしばしば欠勤したとき」に該当するといわざるを得ない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 昭和六三年三月二四日(木)から同年四月七日(木)までの期間、及び平成元年三月二四日(金)から同年四月八日(土)までの期間においては、原告の担当すべき講義及び原告の出席すべき教授会はなかったものということができ、原告が右の期間欠勤したことによって、被告法人の業務に特段の支障が生じたということはできないのであるから、原告が出勤カードにまとめて捺印していたことその他すべての情状を考慮したとしても、原告を懲戒解雇に処することは、懲戒処分としてなお重きに失するものというべきである。したがって、本件懲戒解雇は、懲戒解雇権の濫用に当たるものというべきである。
〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
 通勤手当は、一般に、具体的な通勤に要する運賃相当額が支給されるものであり、いわば実費補償としての性格を有するものであることから、通勤に要する運賃相当額とは無関係に一定の額が支給されている等の事情のない限り、現実に通勤をせず、実費としての通勤に要する費用を負担していない労働者にまで支給されることを予定しているものということはできない。
 被告法人は、本件大学の教員らに対し、通勤手当として、毎月、通勤定期代相当額を支給していることは当事者間に争いがないから、被告法人においては、現実の通勤に要する通勤定期代等に応じて、運賃相当額の通勤手当が支給されているということができる。したがって、被告法人において支給される通勤手当は、実費補償としての性格を有するものである。
 そうすると、原告は、本件懲戒解雇後は、労務の提供を拒絶されており、本件大学に現実に通勤していないのであるから、被告法人に対し、通勤手当の支給を求める権利を有しないものというべきである。〔中略〕
 被告法人の研究費補助事業取扱規程には、研究費の範囲、研究費の限度額、研究費補助事業の会計年度、研究旅費にかかる項目、研究経費にかかる項目及び研究旅費計算基準等が定められており、右研究費は、具体的な研究に現に要した費用であり、かつ、右規程の定める項目等に該当する費用であると認められるところ、原告が、現に行った具体的研究、右研究に要した費用及び右費用が右規程の定める項目等に該当することを認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告が具体的な研究費の支給を求める権利を有するとは認められない。