全 情 報

ID番号 06978
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 友定事件
争点
事案概要  脳疾患を発症しその後職場復帰したが、一方的な減給がなされたことに抗議して退職した労働者が、会社の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求するとともに、右退職は会社都合によるものであるとして会社の承認を得ずに一方的に退職した場合の退職金との差額の退職金、さらに解雇についての解雇予告手当を請求した事例。
参照法条 民法415条
労働基準法20条1項
労働基準法15条2項
民法627条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
退職 / 任意退職
裁判年月日 1997年9月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 9493 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例725号32頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 原告は、本件疾病発症の一年以上前から高血圧症の既往症を有していたが、その程度は必ずしも重症ではなく、その血圧の数値等から本件疾病の発症までをも予測することは不可能であったというべきである。原告自身は、被告に対し、平成五年一二月当時、休暇取得の申請も体調不良の申出もしなかった。
 (二) 以上によれば、原告の従事していた業務はそれ自体過重ではなく、原告は、被告に対し、現実に休暇申請が可能であったにもかかわらず、休暇申請はおろか体調不良の申出もしなかったのであり、かつ、原告の高血圧症の既往症から本件疾病を予測することは不可能であったのであるから、かかる状況下にあっては、被告が、原告が就業するにつき、その生命・身体・健康を配慮して、その安全のために、特別の措置を講じるべき義務があったということはできないというべきであるので、被告は、原告に対し、本件疾病の発症防止のために、安全配慮義務を負っていたと認めることはできない。
 むしろ、前記認定のとおり、原告は、本件疾病の約一年半前、高血圧症につき「要治療」と診断されたにもかかわらず、完治する前に自己の判断で治療を放棄し、一般的に脳血管障害に悪影響を与えるおそれがあるとされている喫煙及び飲酒の習慣を改善させることがなかったのであって、これらの要因が原告の本件疾病の発症に影響を与えた可能性を否定することができないというべきである。
 (三) よって、原告の、被告に安全配慮義務が存することを前提とする損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
 被告が原告に対して本件減給をしたのは営業不振を乗り越えるための人件費の削減が目的であり、あらかじめ原告に対して本件減給につき理解を得る予定であったこと、本件減給に対して辞意を表明した原告を瀬尾と被告会長が繰り返し慰留したこと、それにもかかわらず原告は被告に対し自ら退職届を提出し、被告の慰留には応じなかったことが認められるのであるから、被告は本件減給により原告を解雇したものとは認めることはできない。
 4 したがって、被告が原告を解雇したのでない以上、原告の被告に対する解雇予告手当金の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
〔退職-任意退職〕
 労働基準法一五条は、労働契約の締結に際して、使用者が労働者に対して労働条件を明示すべきことを使用者に義務づける(同条一項)とともに、明示された労働条件と現実の労働条件とが相違した場合に、労働者に即時に労働契約を解除することを認めて労働者の救済措置を定めた(同条二項)ものであって、雇入後に労働契約又は就業規則が変更された場合を律するものではないので、この場合に、労働者に同条二項所定の即時解除権が発生する余地はない。
 本件において、被告による原告の本件減給は、原告の雇入後になされたものであるから、即時解除ができない場合に該当し、よって原告の即時解除の主張は失当である。
 3 以上によれば、原告が会社都合により退職したとの原告の主張はいずれも理由がない。かえって、前記一認定によれば、原告は、退職届を提出して、自らの意思により被告を退職したものというべきである。
 4 したがって、原告が会社都合により被告を退職したことを前提とする原告の退職金請求は理由がない。