ID番号 | : | 06981 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 電通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 長時間労働によるうつ病の発症、うつ病による自殺との間に相当因果関係があるとし、労働時間の軽減措置をとらなかった使用者に安全配慮義務違反があるとして、約一億二千六〇〇万円の損害賠償を命じた一審判決の判断を認容したが、損害賠償額について三割の過失相殺が適当とした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法415条 民法418条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1997年9月26日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ネ) 1647 平成8年 (ネ) 4089 |
裁判結果 | : | 一部変更,一部棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例724号13頁 |
審級関係 | : | 一審/06793/東京地/平 8. 3.28/平成5年(ワ)1420号 |
評釈論文 | : | 藤川久昭・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕150~151頁2000年3月/藤本正・労働法律旬報1419号35~39頁1997年11月10日 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 三 争点に対する判断 次のように付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実及び理由の「第三争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕 控訴人は、自殺は本人の自殺念慮に起因し、自ら死を選択するものであり、控訴人にはそれを予見することも、またこれを回避することも全く不可能であるから、Aの死亡につき、安全配慮義務が成立する余地がないと主張するが、前記認定の事実によれば、控訴人はAの常軌を逸した長時間労働及び同人の健康状態(精神面も含めて)の悪化を知っていたものと認められるのであり、そうである以上、Aがうつ病等の精神疾患に罹患し、その結果自殺することもあり得ることを予見することが可能であったというべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。〔中略〕 4 過失相殺等について 前記認定事実によれば、過労ないしストレス状況があれば誰でも必ずうつ病に罹患するわけではなく、うつ病の罹患には、患者側の体質、性格等の要因が関係していると認められるところ、Aは、真面目で責任感が強く、几帳面かつ完璧主義で、自ら仕事を抱え込んでやるタイプで、能力を超えて全部自分でしょい込もうとする行動傾向があったものであり、Aにこのようないわゆるうつ病親和性ないし病前性格が存したことが、結果として自分の仕事を増やし、その処理を遅らせ、また、仕事に対する時間配分を不適切なものにし、さらには、自分の責任ではない仕事の結果についても自分の責任ではないかと思い悩むなどの状況を作りだした面があることは否定できないこと(もっとも、一般社会では、このような性格は、通常は美徳ともされる性格、行動傾向であり、この点をあまり重視して考えることはできないと考える。)、控訴人においては、自ら残業時間を勤務状況報告表に記載するという自己申告制を採っているところ、Aが実際の残業時間よりもかなり少なく申告していたことが、上司において、Aの実際の勤務状況を把握することをやや困難にしたという面があり、そのように申告せざるを得ない状況にあったとしてもなお、過労を上司に申告ないし訴えて勤務状況を少しでも改善させる途がなかったとはいえないし、そもそも控訴人において必要とされるような知的・創造的労働については、日常的な業務の遂行に関して逐一具体的な指揮命令を受けるのではなく、一定の範囲で労働者に労働時間の配分、使用方法が委ねられているものというべきであるところ(控訴人が超過勤務につき自己申告制を採用していることも、このような労働の性質を考慮したためと考えられる。もっとも、Aの行う業務が右のようにいわば裁量労働の面を有し、Aの長時間労働が控訴人の強制によるものではないとしても、控訴人が右長時間労働を許容ないし黙認していた以上、控訴人に責任が生じないことにならないのはいうまでもない。)、Aは、時間の適切な使用方法を誤り、深夜労働を続けた面もあるといえるから、Aにもうつ病罹患につき、一端の責任があるともいえること、うつ病罹患の前あるいは直後には、Aは精神科の病院に行くなり、会社を休むなどの合理的な行動を採ることを期待することも可能であったにもかかわらず、これをしていなかったこと(〈人証略〉)、被控訴人らAの両親も、Aの勤務状況、生活状況をほぼ把握しながら、これを改善するための具体的措置を採ってはいないこと(被控訴人らは、Aの両親として独身のAと同居し、Aの勤務状況等をほぼ把握していたから、Aのうつ病罹患及び自殺につき予見可能性があり、また、Aの右状況等を改善する措置をとり得たことは明らかというべきである。そして、このような場合には、たとえAが成人で社会的に独立していても、被控訴人らがAの相続人として請求する損害賠償の額につき、右の被控訴人らの事情を斟酌することは許されるものと解する。)などの諸事情が認められ(なお、自殺には、一般的に行為者の自由意思が介在しているといわれるが、Aの自殺は、前記認定の事実関係のもとでは、うつ病によるうつ状態の深まりの中で衝動的、突発的にされたものと推認するのが相当であり、Aの自由意思の介在を認めるに足りない。)、これらを考慮すれば、Aのうつ病罹患ないし自殺という損害の発生及びその拡大について、Aの心因的要素等被害者側の事情も寄与しているものというべきであるから、損害の公平な分担という理念に照らし、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、発生した損害のうち七割を控訴人に負担させるのが相当である。 |