ID番号 | : | 06984 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 丸子警報器(雇止め・本訴)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 二か月の期間で雇用されその契約を反復更新されてきていた女性臨時社員が、期間満了を理由に更新を拒否され、それを違法として従前と同一の労働契約による地位確認を求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法19条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め) |
裁判年月日 | : | 1997年10月29日 |
裁判所名 | : | 長野地上田支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 70 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 労働判例727号32頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 1 原告らと被告との雇用契約には、いずれも二か月の雇用期間の定めがあり、同じく平成八年五月末日限りで、同年四月一日からの二か月の雇用期間が満了したことは当事者間に争いがない。原告らとしては、それまでどおり雇用契約が更新されることを期待していたのに、その更新を被告から拒絶されたものである(便宜上、「雇止め」という表現を用いているが、その実体は雇用契約を更新しないという被告の不作為である。)。もともと期間の定めのある雇用契約の場合、その更新がなければ、特段の事情がない限り、期間の満了によって雇用関係が終了するのが原則であるが、右特段の事情の存否が本件における基本的な争点である。 2 ところで、期間の定めのない労働契約において、使用者がその経営上の必要から労働者を解雇するいわゆる整理解雇の場合、労働者側には何ら責に帰すべき事由がないにもかかわらず、職を奪われ生活の糧たる賃金を得る場を失うに至るものであるから、当該整理解雇が解雇権濫用ないし信義則違反として無効なものでないか否かが慎重に検討されるべきであり、整理解雇が許容されるためには、(1)整理解雇を行わなければ企業経営が危殆に瀕するような差し迫った事情が存在すること、(2)解雇回避努力がなされたこと、(3)事前に十分な労使協議が行われたこと、(4)解雇対象者の選定が合理的な基準のもとになされたこと、以上の要件がいずれも満たされる必要があると解するのが相当である。 3 そして、本件のように短期の期間を定めた雇用契約においても、その更新が使用者側から拒絶されることなく反復され、結果的に長期間にわたり雇用が継続されている場合は、期間の定めのない雇用契約における整理解雇の場合と同様の理由により、使用者側の一方的都合で雇用契約の更新拒絶即ち雇止めをすることは、権利濫用の法理ないし信義則により規制されるというべきである。 それは、期間の定めがあっても雇用が長期間に及んでいる場合には、労働者の側に自己の都合で退職しない限り引き続き働いていられるとの継続雇用への期待が生じるのが通常であり、その期待は、まさに期間の定めのない雇用契約におけると同様のものであって、労働者の生活基盤を支えているという労働契約の特質上、十分に保護されなければならないからである。〔中略〕 1〔中略〕原告らに対する雇止めは、期間の定めのない雇用契約における整理解雇の場合と同じく、権利濫用の法理ないしは信義則により制約されるが、一方において、前記のとおり、短期間の期限を定めて臨時社員を採用すること自体は被告の自由として許容すべきものであるから、整理解雇と全く同様の厳格な要件のもとにしか許容されないと解することもできない。 ことに、雇止めを必要とする経営上の都合については、それをしなければ企業の維持存続が危殆に瀕するほどに差し迫った程度のものでなければならないとすると、雇用調整を容易にすべく臨時社員制度を採用した意義が損なわれることになり、ひいてはそのような雇用形態を設ける自由をも否定することになってしまうから、そこまで厳格に解するべきではない。〔中略〕 四 雇止め回避措置及び事前協議 1 本件雇止めにおける最も大きな問題は、雇止めの回避措置及び労使間の事前協議が何らなされていないことである。〔中略〕(証拠・人証略)によれば、被告は、原告ら雇止め対象者に通知したのと同日である平成八年四月九日に、対象者よりも先に、A労働組合B支部の役員に対し、雇止めをすること、その対象者及び理由として組立自動機の導入とM四リレーの受注減により八名の組立作業員が余剰となることを説明した事実が認められるが、これはすでに決定していた雇止めの方針を伝えたというに過ぎず、雇止めの規模、時期等について事前協議をしたというようなものではないことは明らかである。 2 原告らのように雇用契約の更新が繰返されて勤続が長期間に及んでいる臨時社員らを雇止めする際には、事前に十分に協議の機会を持ち、人員整理の必要を説明して了解を得る努力をすると共に、整理の必要な人数、その時期を明らかにしたうえで、まずは有利な退職条件等の呈示もふまえつつ、希望退職者の募集を試みるべきである。それでも退職者が現われない場合や必要数に満たない場合には、対象者の選定方法につき、重ねて協議の機会を持つべきである。これは、十数年以上もの長期間勤務を継続してきた臨時社員らに対する配慮として信義則上当然のことと考える。 3 してみると、右の措置を経ていない本件雇止めは、信義則に反することが明白である。〔中略〕 被告における臨時社員は、正社員のような年功序列賃金体系がとられない結果、勤務年数を重ねるごとに正社員との賃金の差が拡大して行く状況にあり、賞与も正社員とは歴然とした格差があるし、退職手当の支給額も大幅に異なり、昇進の制度もないことが認められる。また、前述のように、被告において臨時社員制度を設ける自由は基本的には尊重されなければならないから、臨時社員の雇止めは正社員の整理解雇と全く同一条件でしか許容されないとまでは解されず、その点でも臨時社員は身分的に不安定である。このように、待遇を全体的に見れば、臨時社員の方が明らかに不利な面が多く、勤務期限のみを取り出して正社員との不均衡を問題視するのは片手落ちであり不公平というべきである。むしろ、臨時社員の処遇面で正社員より有利な点は定年制がないことであるから、被告においては六〇歳を超えても雇用継続を希望する臨時社員については、その労働能力ないし適格性に問題がない限り、信義則に則った真摯な対応が求められるといわなければならない。したがって、正社員の定年制との均衡上、六〇歳以上の臨時社員については雇用契約の更新義務は一切ないとの被告の主張はただちに採用できない。 4 (三)については、雇止め対象者の選定基準として、正社員であれば定年退職となる年齢の者を対象とするということは、基準の立て方としてそれなりの合理性があり、具体的に妥当な場合もあり得ると思われる。しかし、前述のように、対象者の選定についても労使間の十分な事前協議を経る必要があると考えられるから、それが全く行われなかった本件において、一方的な選定基準の合理性を論じる意味は乏しいといわなければならない。〔中略〕 1 以上のとおり、原告らに対する本件雇止めは、それに先立っての希望退職者の募集などの回避措置及び労使間の事前協議を経ていない点で、明白な信義則違反があるうえ、雇止めの経営上の必要性を認めることも困難であるから、権利の濫用にあたりいずれも無効といわざるを得ず、また、原告らが六〇歳に達していたことは、何ら本件雇止めを正当化できる根拠とはならないというべきである。 したがって、原告らは平成八年六月一日に他の臨時社員と共に雇用契約が更新され、以後その更新が繰り返され、現在もなお二か月ごとにこれが更新される被告の臨時社員たる地位にあるものである。〔中略〕 |