全 情 報

ID番号 06992
事件名 通勤災害非該当認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地公災基金北海道支部長事件
争点
事案概要  地方公務員が自動車によって帰宅途上、他の自動車と衝突事故をおこし死亡したケースにつき、脳幹出血の病変を発症して死亡したものとして、通勤災害に当たらないとした原処分が維持された事件。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1997年1月27日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 19 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例745号67頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 五 Aの死亡と本件事故との因果関係
1 以上検討してきたように、Aは脳幹部の病変あるいは損傷によって死亡したと推認することができること、しかし、Aの脳幹部に外力による損傷が生じたと認めることには疑問が大きいこと、これに対し、本件事故直前の本件車両の走行状況はAの身体に異変が生じていたことを疑わせるものであり、これに加え、Aが高血圧症を患って脳出血が起こり得る状況にあったこと、本件事故直後のAの身体の状況が脳出血を起こした際の症状に比較的合致していることなどを総合すれば、Aは、本件交差点に進入する際に脳幹部に出血を起こして意識障害を起こし、その病変によって死亡したものと推認するのが相当である。
2 本件車両が衝突後に左へ向きを変えていることをとらえて、Aはハンドル操作をして左旋回中に衝突したと推認する見解や、Aが停止後自らシートベルトを外していたのを目撃したとの記載をした証拠がある(〈証拠略〉)。しかし、本件車両は衝突の衝撃で相手車両に押されて向きを変えた可能性も十分にあり得るし、Aが自らシートベルトを外したのを目撃したとの点についても、その時点では「シートベルトを外して」との問い掛けに何とか反応する程度の意識が残っていたと考えることもできるから、これらの証拠は脳幹出血を起こしたとの推認を妨げるものではない。
 また、病的な脳幹出血では発症後生命兆候が停止するまでに一〇分以内といった短時間で死亡することは通常あり得ないとする証拠もあるが(〈証拠略〉)、脳幹部に急激な大量の出血があったとすれば短時間で死亡することも考えられるから(〈証拠・人証略〉)、これをもって脳幹出血によって死亡したとはいえないということはできない。
3 以上のとおり、本件においては、Aは通勤途上で脳幹出血の病変を発症し、これにより死亡したものと推認するのが最も合理的である。これは通勤に通常伴う危険が具体化したものではなく、むしろ、甲野太郎が有する基礎疾患が原因となって、偶然通勤途上で発症したものというべきであるから、Aの死亡と本件事故との間に相当因果関係は認められず、その死亡に通勤起因性を認めることはできない。