ID番号 | : | 06994 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 医療法人清風会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 使用者が懲戒事由を認知した後、事実関係の調査、いかなる懲戒処分を選択するかについての調査、事務分配の調整、業務の停滞を回避するための事務の引き継ぎを図る必要などがあることから、就業規則に懲戒権行使の時間的限界について特別な定めがない場合には、懲戒事由を認知した後、事実の確認その他の調査、調整に必要な相当な期間内に懲戒権を行使すれば足り、それ以上に長期間が経過した後に懲戒権を行使したとの事実は、原則として懲戒権の濫用に該当するか否かを判断する際の一事情として考慮すれば足りるとされた事例。 公職選挙法違反に基づく懲戒解雇につき、執行猶予付き判決であること、前歴がないこと、本件犯行にかかわった他の職員との処遇との均衡などにより、懲戒権の濫用に当たり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 民法1条3項 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 有罪判決 |
裁判年月日 | : | 1997年2月20日 |
裁判所名 | : | 山形地酒田支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成8年 (ヨ) 31 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下(異議申立) |
出典 | : | 労働民例集48巻1・2号1頁/労働判例738号71頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 2 懲戒解雇権の喪失について (一) 疎明資料によると、債権者が平成七年九月一四日、本件犯行により逮捕され、引き続き勾留されたこと、その後、同年一一月二九日に保釈された後、同年一二月一日からA病院の職場に復帰したこと、平成八年九月六日に至ってBから債務者による懲戒解雇を通告されたことを一応認めることができる。 (二) 一般に、使用者は、懲戒事由に該当する事実を把握してから、可及的速やかに懲戒権を行使するのが通例であり、労働者にとっても、いつ懲戒処分を受けるのか不明な状態で勤務を継続することは結局集中して業務に従事することをも妨げることになるうえ、法律関係の不安定をも招くものである。 しかしながら、使用者においても、当該懲戒事由を認知した後、事実関係の調査、いかなる懲戒処分を選択するかについての調査、事務分配の調整、業務の停滞を回避するための事務の引き継ぎを図る必要などがあるから、就業規則に懲戒権行使の時間的限界について特別な定めがない場合には、懲戒事由を認知した後、事実の確認その他の調査、調整に必要な相当な期間内に懲戒権を行使すれば足り、それ以上に長期間が経過した後に懲戒権を行使したとの事実は、原則として懲戒権の濫用に該当するか否かを判断する際の一事情として考慮すれば足りると解される。 そうすると、前記認定のように、本件懲戒解雇の通告は、債権者の逮捕後約一年弱、本件有罪判決確定後七か月余り後になされているが、未だこの事実のみで債務者が懲戒権を喪失したとまで解することはできない。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-有罪判決〕 4 以上の事情によると、債権者は、本件有罪判決を受けたことにより、「法に触れる行為をした」こと、また、この事実が新聞等の報道機関により報道されて債務者の信用を害したことは確かであり、債務者の就業規則に定める懲戒事由に該当することは否定できない。 しかし、債務者の就業規則によると、懲戒行為の軽重によって各種の懲戒処分を課すこととされているところ、懲戒解雇処分は、労働者から収入の途を奪い、また、再就職に当たっても不利益となる最も強力な懲戒処分であるから、懲戒解雇処分を選択するのは、企業秩序の維持上、当該従業員を企業外に放逐しなければならないほどの重大かつ悪質であり、情状の重い場合でなければならないと解すべきである。 そうすると、債権者が本件犯行を職務の執行中に行ったことは間違いないが、不在者投票の補助事務はA病院本来の業務というよりは、選挙管理委員会からの委託に基づく側面があること、債権者の本件犯行の遠因にはC元理事長の業務運営上の問題があったこと、本件懲戒解雇の通告を受けるまでの債権者の勤務状況に特別問題があることを示す疎明資料がないこと、本件有罪判決が執行猶予付の判決であって実刑判決ではなく、また、それ以外に債権者に格別の前科前歴がないこと、本件犯行に関わった他の職員の処遇との均衡を考えると、債権者を企業秩序の維持上企業外に放逐しなければならないほどの重大性、悪質性はなく、そこまでの情状の悪質性もないというべきである。したがって、債権者の本件有罪判決に対する懲戒処分として懲戒解雇処分を選択するのは重きに失し、無効である。 そうすると、債権者には、債務者の元で就労して、賃金を求める権利があるところ、平成八年九月七日以降、債務者は、賃金を支払わず債権者の就労を拒絶しているのであるから、債権者には、債務者に対して、賃金を請求する権利がある。 |