ID番号 | : | 06995 |
事件名 | : | 労働契約上の義務不存在確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 北海道厚生農業協同組合連合会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 病院の副総婦長に対する管理職としての権限を縮少し通常の指揮命令系統から外すことを内容とする配転命令につき、業務上の必要性が大きいとはいえないにもかかわらず、原告に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもので、人事権の濫用に当たり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 民法1条3項 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1997年3月24日 |
裁判所名 | : | 釧路地帯広支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 114 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(確定) |
出典 | : | 労働民例集48巻1・2号79頁/労働判例731号75頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 黄馨慧・ジュリスト1140号147~149頁1998年9月1日 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕 原告について、前記認定のとおり、原告を看護部における管理職としての権限を大幅に縮小した上、右部門における通常の指揮命令系統から外すべく、看護部長の直轄下の副看護部長待遇として、中央材料室における看護助手に対する労務管理、業務改善等に従事させたことには、労働力の適正配置、業務の能率増進、業務運営の円滑化など病院業務全体の合理的運営に寄与する点が認められ、その意味で、本件配転命令について、一応の業務上の必要性の存在を肯定することができないわけではない。 (二)(1) しかしながら、他方、前記認定の事実によれば、被告は、原告の看護婦としての実務能力自体については大きな問題はないものと把握していたこと、原告に職場秩序を大きく乱したり、職務上の指示命令を拒否したりするなどの問題行動もなかったこと、原告の協調性がないことや部下の管理ができていないことなどの問題点についても、これまでに被告の管理職等を通じての具体的事実関係の確認や是正を求める指示は限られた範囲で行われたにすぎず、原告に対して適切な指導、助言を行い、その管理能力について反省、改善を促すこともしていなかったこと、さらに、健康管理事業担当副総婦長の職務に関しても、啓蒙、講演活動に関する事項について主任中心で行ったとの指摘があったものの、このこと自体により不都合が生じたことはなかったこと、A院長から指摘された問題点も、従来の健康管理事業を改善するために期待されたものであり、医事課をはじめとする他部門との調整を要する面が多く、原告又は健康管理センターのみで是正することの可否、本件配転命令後における右問題点の是正の有無などについて、被告が確認をしまた指導した形跡も窺われないこと、原告は研修会に参加するなどして患者に対する十分な説明と納得のいく医療等への取り組みをする姿勢も示していることがそれぞれ認められ、また、原告が看護婦として副総婦長にもなり約一三年間もその職にあり、また総婦長の候補にもなったことを考慮すると、原告の管理能力等の問題点が、看護部から外し、本件配転命令による権限縮小を要するまでの重大なものであったということはできず、また、その改善自体も困難であるとは認めることができないところ、原告を看護部の通常の指揮命令系統から排するまでの必要性があったものと認めることはできない。 (2) また、前記認定の事実によれば、本件配転命令においては、原告を通常の指揮命令系統から外すための最適な部署として中央材料室が選択されたとみる余地はあるものの、中央材料室自体、医療材料、器具類等の供給管理、消毒、滅菌等の比較的単純な業務を担当し、昭和六二年以降看護助手のみで運営されていた部署であった上、前記認定の原告の中央材料室における職務内容についてみても、その管理職としての権限は大幅に縮小されているほか、その職務自体も高度の知識、能力等を要求されるものとは到底いえないものであって、前記認定の原告の経歴、能力、従前の地位等に照らすと、少なくとも右職務内容の遂行のために右部署に原告を選定して配置しなければならない業務上の必要性があったとは認められない。 (三) 一方、前記認定の本件配転命令による原告の権限及び職務内容は後に是正された部分も含めて、原告の経歴、能力、従前の地位等に照らすと、その権限を大幅に縮小され、また原告は病院内の情報に接することも困難な状況下に置かれるとともに、中央材料室における単純な職務に従事することを余儀なくされ、これにより看護婦としてこれまで培ってきた能力を発揮することもできず、その能力開発の可能性の大部分をも奪われたばかりでなく、何らの具体的理由を説明されず、また弁明の機会を与えられないまま一方的に不利益な処遇を強いられた上、その社会的評価を著しく低下させられ、その名誉を著しく毀損されるという重大な不利益を被ったものというべきである。 3 以上の諸事情を総合考慮すれば、本件配転命令はその業務上の必要性が大きいとはいえないにもかかわらず、原告に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、人事権の濫用に当たるものであって、無効であるといわざるを得ない。 |