ID番号 | : | 07001 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日経新聞社・第一交通株式会社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 雲仙・普賢岳の火砕流災害で、新聞社のカメラマンを運び死亡したタクシー運転手の遺族が、新聞社及びタクシー運転手が所属していたタクシー会社を相手として安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求した事例(請求棄却)。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法715条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1997年4月25日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 3979 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1637号97頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 火砕流が発生した場合の規模ないし到達範囲を具体的に予測することは困難であり、また、火砕流本体の前面にブラストが発生するとの認識をAが有していたことを認めるに足りる証拠もない。これらの事実に、前記認定のとおり、避難勧告が発令され、勧告地域へ進入しないよう協力を要請されていたものの、勧告地域内への取材のための通行は事実上制限されなかったこと、取材現場はそれまでの最大規模の火砕流の到達した地点より約一キロメートル下流の地点であり、地元住民も安全と考えていた地点であって、水無川より高台に位置すること、Aらは高台にいれば火砕流に巻き込まれることはなく、火砕流が接近したとき車で避難すればよいと考えていたこと、従前火砕流によるものとして報道された人的被害はせいぜい軽度の火傷程度のものであったこと、人的被害が今後生じるとすればそれは土石流によるものと考えていたことを総合すれば、Aは本件事故当時、本件事故現場に滞留すれば火砕流による死亡事故が発生する恐れがあるとの具体的認識を有してはいなかったものと認めるのが相当である。 なお、前記のとおり同年五月二七日付B新聞は、火砕流は高温ガスと火山灰、溶岩の破片など粉状の混合物が山腹を速い速度で流下する現象であるとの記事、本件事故当日のC新聞は火砕流の速度は新幹線並みであるとの記事を掲載しており、Aが右記事を読んでいたか否かは明らかでないが、Aが本件事故前に火砕流の速度等について右記事のような認識を有していなかったことは、前記認定のとおりのAの被災直前の比較的余裕を持っていたと窺われる行動から十分推認できるところであるし、仮に同人が右記事を読んでいたとしても、火砕流の性状について特段の予備知識を有していたとは認められないAにおいて、右記事内容から直ちに本件事故現場における取材に具体的危険があると予測することはできなかったものと認めるのが相当である。〔中略〕 安全配慮義務違反を理由として損害賠償を求める訴訟においては、原告においてその義務内容を特定し、義務違反に該当する事実を主張立証する責任がある(最高裁判所昭和五六年二月一六日判決・民集三五巻一号五六頁)ところ、本件において原告らが主張する被告第一交通の安全配慮義務の内容は、前記のとおり、危険地域への配車要求があったときは乗客に対し目的地ないし経路の安全を確認すべき義務であるというのである。 しかし、前記認定のとおり、乗客であるAには、被告Y会社に対して配車を依頼する電話をした当時、本件事故現場の危険性については、火砕流に対する避難勧告地域内であるとの一般的認識以上に特段の具体的な認識はなかったのであるから、仮に配車係のDにおいてAに対し右の趣旨の質問をしたとしても何ら安全配慮義務の履行上意味のある回答は期待できない状態であったことは明らかである。そうすると、仮に被告Y会社が小林に対し、原告ら主張の内容の安全配慮義務を負うとしても、本件においては義務違反と結果発生との間の因果関係の存在を認めることができないから、原告らの被告第一交通に対する請求は理由がない。 |