全 情 報

ID番号 07003
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 富士シャリング事件
争点
事案概要  鉄鋼材の剪断加工を業とする会社が業績悪化により業務を転換し、工場を倉庫として賃貸しするようになり、そこで倉庫の統括業務をやっていた者が、後に会社が新たに行うようになったビルの管理業務に従事していたが、他の会社にビルの管理業務を委託することに伴いビルの管理業務がなくなったため、元の倉庫業務に復するように配転命令受けたにもかかわらず、それに従わないことを理由に諭旨解雇され、その効力を争った事例(併せて賞与および賃金について未払額があるとしてその請求も行われている)(一部認容)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
労働基準法24条1項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1997年5月2日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 7734 
裁判結果 一部棄却、一部認容
出典 労働判例740号63頁/労経速報1642号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 右認定の事実によれば、原告が従前従事していたAビルの入居者募集やビル管理の業務は、不動産会社に委託したり、被告の総務経理が行うようになったため、原告がAビルに関して行うべき仕事はなくなったということができる。また、本件業務命令が発せられた当時の被告の営業は、倉庫業務のほかにはAビルの管理、入居者募集などに限定されていたのであるから、原告がAビルに関する業務から離れた後は、倉庫業務に従事するほかなかったのであるし、さらに、被告の業績は芳しくなく、人材派遣会社に対する支払等の経費を節減する必要があったことなどの事情をも考え併せれば、被告が、原告に対し、倉庫業務に従事するよう命じた本件業務命令を発したことは、被告の経営判断に基づく裁量の範囲内の行為というべきであって、何ら不当なものとはいえない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 本件業務命令は、被告の業務上の必要性に裏付けられたものであり、かつ、その経営上の合理性もあったというべきであるから、原告の本件業務命令が原告に対する嫌がらせや原告を被告から排除することを目的とした不当なものである旨の前記主張は、失当であって、採用することはできない。
 (四)(1) 以上判示のとおり、本件業務命令に違法、不当な点はない。そして、原告は、正当な理由もなく、本件業務命令を拒否したというべきである。
 (2) 原告の右本件業務命令違反は、被告の就業規則五八条所定の懲戒事由である「職場の規律を無視して会社の秩序を乱したとき。」(一号)に該当するというべきである。また、前記認定のとおり、原告は、本件業務命令以降(第一次解雇の撤回以降)欠勤や遅刻、早退が多かったのであるが、右欠勤のすべてが被告の就業規則上の無断欠勤にあたるとは言い切れず、したがって、「正当な理由がなく無断欠勤一四日以上に及んだとき。」(七号)との懲戒事由に該当するとは断定できないが、少なくとも、右事情は、同条一号の懲戒事由にあたるとはいえる。また、前記認定の事実によれば、原告には、「戒告又は譴責が数回に及んでも怠慢で業務に不熱心なとき。」(一一号)との懲戒事由もあったというべきである。
 (3) これらの事情に鑑みれば、本件解雇は、被告の就業規則の規定に基づくもので、有効といわなければならない(なお、前記解雇通告書(〈証拠略〉)には、原告を通常解雇に付す旨の記載があるが、右通告書には、解雇の理由として、懲戒事由が掲げてあることに照らせば、本件解雇は、被告主張のとおり、被告の就業規則に規定された懲戒処分としての諭旨解雇であったとするのが相当である。)。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 賞与は、その性質上使用者の対象期間における業績、労働者の勤務状況等の諸般の事情を勘案したうえで、支給率や金額が個別具体的に決定せられるものであって、そのような手続きを経ることなく、賞与の具体的な金額を決定することは困難である。しかるに、本件においては、支給さるべき賞与の金額を定める基準等が明らかでないばかりでなく(〈証拠略〉によるも、右期間の賞与が基本給等の額に一定の割合を乗じて算出されたとはいえない。)、原告は、右各賞与の対象期間において、担当していたAビルの入居が進まず、また、Aビルの管理等を巡ってBやCと対立するなど、自らの業務を誠実に遂行していたのかの点で疑問が残らないわけではない。しかしながら、本件に顕れた諸事情だけでは、原告の具体的な賞与額を決定することができないし、また、被告も、右諸事情を前提とした賞与額等の主張をしないのであるから、結局、被告がその従業員のうちで原告と最も近い時期に入社したと主張するDに支給された金額を基準として決するほかはない。〔中略〕
〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 被告が主張する受働債権のうちには、未払給与及び未払賞与の各請求権が含まれているが、これらは、いずれも賃金たる性格を有するものであり、使用者たる被告が従業員である原告に対して有する債権をもって、原告の賃金債権と相殺することは許されないというべきである。したがって、被告の右未払給与及び未払賞与の各請求権を受働債権とする相殺の主張は、失当といわなければならない。
 そうすると、被告の原告に対する前記不当利得返還請求権による相殺は、立替金の実質を有する未払交通費及び経費を受働債権とする部分に限られることになる。