ID番号 | : | 07011 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | サンスリー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 自動販売機の集金額不足を理由とする自宅待機命令、出向命令及び出向命令拒否に伴う解雇につき、根拠なく原告を犯人と決めつけたことによるもので不法行為に当たるとの主張につき、被告に適切な対応を欠いた点がなくはないが、不法行為を構成するまでの違法性があったとはいえないとして棄却された事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法710条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟 |
裁判年月日 | : | 1997年6月27日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 9195 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報1665号17頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕 三 原告の本件各請求の当否について検討する。 1 原告は、被告Yが原告を本件事件の犯人であると根拠なく決めつけ、原告にその旨を告知したこと、この誤った判断に基づき、原告に対して自宅待機やA会社への出向(本件出向命令)を命じ、これを拒否した原告を解雇した(本件解雇)ことが不法行為に該当する旨を主張する。 (一)(1) しかしながら、前記認定の事実によれば、本件事件は、原告の担当する地域に設置された自動販売機において発生したものであり、自動販売機が壊されたり、こじ開けられたりした形跡もなかったのであるから、被告Yが、本件事件が自動販売機の鍵を利用して敢行されたとの疑いを抱いたのは当然というべきである。そして、自動販売機の鍵を保有していたのは、原告を含む被告会社の三名の従業員のほかは、被告会社及びB会社だけであったのであるから、被告Yがこれらの者を対象として、内部的調査を行い、本件事件を解明しようとしたとしても、何ら不当であったということはできない。 (2) 確かに、(書証略)(いずれも原告と被告Yとのやりとりを録音したテープの反訳書)によれば、前記認定にもあるように、被告Yが、原告が本件事件の犯人であることを確信しているかのように受け取れる発言に及んでいることが認められる。しかしながら、前記認定の事実によれば、被告Yは、原告が本件事件の犯人であったのではないかとの疑惑を抱いてはいたものの、そのように断定するだけの確証はなく、警察の捜査等により本件事件の全容が解明されるのをまって、原告への対応を決めようとしていたのであり、その間原告に対して自宅待機を命じはしたものの、給与の支払いは続けていたのである。そして、右各証拠の記載に表われた被告Yの発言も、これを全体の文脈からみれば、右の事実に沿うものといえる。そうすると、先に認定したように、原告と被告Yとの前記各話し合いの際、被告Yから原告が本件事件の犯人であるかのような趣旨に受け取られる余地のある言辞が発せられたとしても、それは、双方の言葉のやりとりの中での表現にすぎないというべきであって、前記判示の事情に照らせば、そのことから直ちに、被告Yが、原告が本件事件の犯人であると決めつけたとすることはできない。 また、右原告と被告Yとのやりとりは、公の場で行われたものではないから、そのことによって、原告の社会的評価が失墜したともいえない。 (二) さらに、前記認定のとおり、原告に対しては自宅待機の間も給与が支払われていたことに照らせば、右自宅待機は、原告に対する懲戒的な意味をもつものとはいえず、単に被告会社が調査を行っている間、原告の就労義務を免除したにすぎないと解すべきである。そして、原告だけが自宅待機の対象にされたことも、本件事故が原告の担当区域のみで発生したことに鑑みれば、その一事をもって、右自宅待機が原告を本件事件の犯人と決めつけたことに基づく違法な行為であったとすることはできない。 (三) また、本件出向命令についても、右自宅待機について述べたのと同様、原告が本件事件の犯人であるとの断定によるものとはいえないし、本件解雇は、原告が本件出向命令に従わなかったことを直接の理由としたものというべきであって、原告が本件事件の犯人であるとの判断を前提としたものといいきることもできない。 (四) 右判示のとおり、被告Yが、原告を本件事件の犯人であると断定し、原告にその旨を告知したとはいえず、また、原告に対する自宅待機命令、本件出向命令及び本件解雇も、原告が本件事件の犯人であるとの判断に基づくものともいえない。〔中略〕 右判示のとおり、被告Yが原告を本件事件の犯人であると決めつけて、その旨を原告に告知したり、原告に対する自宅待機命令、本件出向命令及び本件解雇が原告が本件事件の犯人であるとの判断に基づくものであったとすることはできないから、原告の右請求は、その前提を欠くといわなければならない。 (三) 確かに、前記認定の事実によれば、被告Yの対応にも適切さを欠いた点がないではない。例えば、本件出向命令が本件事件の解明に至るまでの一時的措置であることについての充分な説明を行うなど、原告に時々の状況を説明し、その納得を得るための努力が不足していたといわれても仕方がない事情も指摘できる。しかしながら、そのような事情を考慮してもなお、被告Yが行った前記諸行為が不法行為を構成するまでの違法性があるとはいえない。 |