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ID番号 07016
事件名 懲戒処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 愛知県教育委員会事件
争点
事案概要  市立学校職員が定期健康診断におけるエックス線検査の受検命令を拒否したことに対し、地方公務員法二九条一項一号及び二号の懲戒事由に当たるとして減給処分したことにつき、職員には受検命令に従う義務があり適法とされた事例。
参照法条 地方公務員法29条1項
学校保健法8条1項
労働安全衛生法66条1項
労働安全衛生法66条5項
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1997年7月25日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (行コ) 14 
裁判結果 取消自判(上告)
出典 労働民例集48巻4号293頁
審級関係 一審/名古屋地/平 8. 5.29/平成1年(行ウ)32号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 (一)ICRPが勧告していた医療被曝(検診の場合を含む)を除外した線量当量限度(実効線量)は、本件エックス線検査時である昭和五六年当時は一年間に五ミリシーベルト、平成二年でも連続するどの五年間についても平均一ミリシーベルト」とされているところ、右勧告では線量当量限度の適用のない医療被曝に該当する本件エックス線検査に使用されたと推認できるレントゲン照射装置による放射線暴露(実効線量)は〇・〇三ミリシーベルト程度であったと考えられ、右勧告の線量当量限度に比較しても非常に僅かであること、(二)定期検診における結核患者発見率が著しく低下し、発見される排菌性結核患者もほとんどいないとして、小中学生の胸部エックス線集団検診の今後の廃止を提言する平成四年の公衆衛生審議会でも、罹患する結核患者数が小中学生よりも多数の高校生については現時点(平成四年当時)の廃止は適切でない旨述べ、現に、高校一年生及び教職員については胸部エックス線集団検診は廃止することなく当然継続して行われているところ、右当時よりも罹患する結核患者数が多数であったことが窺われる昭和五六年当時には、胸部エックス線集団検診の必要性は当然存在していたと推認されること、(三)被控訴人は自分が結核になると周囲の多くの人に結核を感染させる虞のある職業ないしは環境にある人々いわゆるデインジャーグループの教員という立場にあって結核未感染者であり感染可能性の高い生徒に接する生活環境にあること、(四)平成六年における新登録結核患者の喀痰検査における結核菌陽性率は四二・一パーセントで、その信頼性はそれほど高くなく、胸部エックス線診断に代替できるものではないこと等の事実が認められ、これらを併せ考えれば、集団感染を防止するために、結核感染の有無についてのエックス線検査は不必要とは認められず、本件において、被控訴人は本件エックス線検査を受検するよう命じたA校長の職務命令に従うべき職務上の義務があったというべきである。したがって、被控訴人がA校長の本件職務命令を拒否した事実は、地公法二九条一項一号及び二号に該当すると認められる。
 4 本件職務専念義務と懲戒事由該当性について
 被控訴人の本件夏期厚生計画参加承認申請についてのA校長の不承認の経緯は、前記二認定のとおりであるところ、被控訴人は、同校長の不承認は、権限を濫用した違法がある旨主張するが、前記認定のとおり、(一)いわゆるはみだし部分についての愛知県小中学校長会及び愛知県教員組合の合意並びに碧南市小中学校長会及び碧南市教員組合の合意は、いずれも授業等に支障のないことを条件としていること、(二)参加承認についての専決権は各学校長が有し、校長会の合意に法律的に直接拘束されるものでないことから、参加を申し出れば必ずしも承認しなければならないものではないところ、A校長が、被控訴人の本件夏期厚生計画参加予定日には、被控訴人の社会科の授業が四時間、特別活動としての通学団会指導等が予定されているとして、これを不承認としたものであるから、右不承認が権限を濫用したものであるとは認めることができない。
 四 判断の合理性逸脱について
 被控訴人は、喀痰検査及び血沈検査を受け異常なしとの検査結果を得て、これを報告しているのに、本件エックス線検査を拒否したことを問責するのは、合理的許容限度を超える旨主張するが、前記のとおり喀痰検査がエックス線検査を代替するものではなく、本件エックス線検査の受検は必要であると考えられるから、右喀痰検査を受けたこと及びその結果を報告したとしても、本件エックス線検査を拒否したことに対し本件処分を行ったことは合理的かつ相当であったと認められる。
 五 適正手続違反について
 被控訴人は、地公法二九条に基づく懲戒処分は被処分者にとって不利益処分であるから、適正な手続の保障として、被処分者に処分とされるべき事実を告知し、その弁明の機会が与えられるべきであり、その手続を欠いた処分は適正手続に違反する旨主張する。
 しかし、地公法上職員に対する懲戒処分をなすにあたって告知と聴聞の手続を要する旨の規定はないから、控訴人のする懲戒処分にあたって、被処分者に対し告知と聴聞の手続が常に権利として保障されているものと解することはできず、控訴人が懲戒処分をするにあたり、告知と聴聞の手続を採るか否かは、控訴人の合理的裁量に委ねられているというべきであるところ、本件処分の対象となった事実は、前記認定のとおり、前記各法律の胸部エックス線検査受検義務に反し、かつA校長の発した胸部エックス線検査を受検するようにとの職務命令を遵守しなかったこと及び昭和五六年七月一六日の勤務時間の全部にわたり勤務しなかったことであって、(当事者間に争いがない事実)、控訴人が本件処分をするにあたり、被控訴人に告知と聴聞の機会を与えたとしても、それによって本件処分の基礎とされた事実の認定が左右され、処分内容に影響があったものと認めることはできないから、本件処分に際し、告知と聴聞の手続の履践を欠いたことにより本件処分が裁量権の濫用として違法となるものということはできない。
 六 裁量権の濫用(動機の違法)について
 被控訴人は、本件処分は、被控訴人がA校長の学校運営に関し異議を唱えた被控訴人に対する報復としてなされたものであり、処分権を濫用したものである旨主張し、原審における被控訴人本人尋問には右主張に沿う供述が存在するが、右供述のみをもってして右主張事実が証明されたとすることはできず、他に客観的に右主張事実を証するに足りる証拠はなく、右主張は採用することはできない。