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ID番号 07018
事件名 雇用契約上の地位確認請求控訴事件
いわゆる事件名 JR東日本(秋田保線区等)事件
争点
事案概要  旧国鉄に勤務していた労働者が、国鉄改革法の成立により、JR東日本の設立委員により昭和六二年三月一〇日付けで現職場に配転を命じられ、四月一日付けで同じ職場、職名への配属を命じられたことを人事権の濫用、不当労働行為に当たるとして原職場に勤務すべきことの雇用契約上の地位確認を求めていたケースの控訴審で、原審と同様に棄却された事例。
参照法条 日本国有鉄道改革法23条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 成立
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
裁判年月日 1997年7月30日
裁判所名 仙台高秋田支
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 40 
裁判結果 棄却(上告)
出典 タイムズ966号205頁/労働判例723号48頁
審級関係 一審/06140/秋田地/平 5. 4.26/平成1年(ワ)257号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 控訴人らが、被控訴人の設立委員から本件採用通知を受けたことによって、昭和六二年四月一日、国鉄とは別個の法主体である被控訴人と控訴人らとの間で、改革法二三条の規定に基づいて、右当事者間における特別の意思表示を要することなく、労働契約が成立し、その効力を生じたものである。この場合、職員募集に当たって提示された労働条件の内容にかんがみると、右労働契約は、就業の場所を会社の営業範囲内の現業機関等、従事すべき業務を旅客鉄道事業及びその附帯事業並びに自動車運送事業その他会社の行う事業に関する業務(関連事業の業務を含む。)とする概括的なものとして成立したものと認められるから、被控訴人は、控訴人らの勤務箇所、従事すべき業務等を決定し、控訴人らにこれを命ずる相当広範囲な労務指揮権を有することが明らかであり、その権限に依拠した本件配属通知によってすでに内示されていた具体的な勤務地を含む労働条件による労働契約が成立し効力を生じたものというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 このことは、控訴人らと被控訴人の労働契約は、本件配属通知による内容で創設されたものであり、労働契約上、控訴人らがいう原職場が、労働条件としての勤務地に組み入れられる余地はなかったことを意味するものである。したがって、労働契約上の権利として、控訴人らが、被控訴人に対し、別紙(一)発令一覧表記載の原職場記載の各職場に勤務する権利があるということは、認める余地がないというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約の承継-営業譲渡〕
 我が国においては、労働者が有機体としての企業組織の構成部分としてこれに包摂されて取り扱われるべき性質を有するものと解すべき実定法上の根拠はないから、個々の労働契約関係が営業譲渡に伴って当然に包括的に移転していくものということはできない。営業譲渡は必ずしも全部の権利義務を譲渡しなければならないものではないのであるから、契約により営業が譲渡される場合においても、どのような権利関係を移転するかは譲渡契約当事者間で自由に決められるべきものであり、現実の営業譲渡契約において労働契約関係移転に関する合意があったかどうかが個別に検討されることになる。そして、本件の国鉄の分割民営化に伴う国鉄から各新会社への事業の引き継ぎ及び権利義務の承継については、国鉄改革関連法令によって方式が法定されており、各新会社設立の過程に国鉄の営業の分割譲渡又は営業の現物出資の要素が認められるとして、右法の趣旨が、従来の国鉄職員との労働契約関係についても各新会社にこれを承継させるものであったか否かが問題となるところ、すでに認定したように、国鉄の改革においては国鉄の事業等の分割化と余剰人員の可及的解消による効率的な経営体制の確立を目的とし、国鉄改革関連法令において、事業等の引き継ぎや権利義務の承継とは区別して、新会社職員の採用手続に関する特別の規定を設け、労働契約関係については承継しない旨を明示していることが明らかなのである。また、すでに触れてきたように、改革法二三条は、新会社と職員との労働契約関係が同条所定の段階を経て新たに形成されるものであることを明確かつ具体的に規定しているものであり、労働契約関係の当然承継を前提にした職員振り分けの規定ではないことは明らかといわなければならないので、営業譲渡の法理もまた適用する余地はない。