ID番号 | : | 07023 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 上田株式会社 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 同僚とともに会社名義のクレジットカード利用明細書添付のクーポン券を集め、応募用紙に会社名義を冒用してクーポン券と一緒にカード会社に送付して六年間にわたり総額で一四万円相当の商品券等を取得していた経理課職員が普通解雇され、その効力を争った事例(申立却下)。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為 解雇(民事) / 解雇権の濫用 解雇(民事) / 解雇手続 / 解雇理由の明示 |
裁判年月日 | : | 1997年9月11日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成9年 (ヨ) 21105 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | タイムズ966号217頁/労働判例739号145頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇手続-解雇理由の明示〕 債務者は、本件解雇の理由として、解雇通知書に記載された金券横領、私文書偽造に加え、勤務成績の不良を挙げる。これに対し、債権者は、本件仮処分申立事件において勤務成績の不良を解雇理由として斟酌することは許されない旨主張する。 確かに、使用者が労働者に対して普通解雇を行う際、解雇理由を明示することが望ましい。しかしながら、使用者の行う普通解雇は、民法に規定する雇用契約の解約権の行使にほかならず、解雇理由には制限はない(但し、解雇権濫用の法理に服することはいうまでもない。)から、就業規則等に使用者が労働者に対して解雇理由を明示する旨を定めている場合を除き、解雇理由を明示しなかったとしても解雇の効力には何らの影響を及ぼさず、また、解雇当時に存在した事由であれば、使用者が当時認識していなかったとしても、使用者は、右事由を解雇理由として主張することができると解すべきである。これを本件についてみるに、債務者の就業規則には、解雇に際し、債務者が労働者に対して解雇理由を明示する旨の定めがなく、また、債務者の主張する債権者の勤務成績の不良は、本件解雇前の債権者の勤務状況を解雇理由とするものであるから、債務者が債権者の勤務成績の不良を本件解雇理由とすることは許されるというべきである。〔中略〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 1 使用者が労働者を普通解雇する場合において、普通解雇事由があれば使用者は常に解雇をなし得るものではなく、当該具体的な事情の下において、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、当該普通解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効である。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-不正行為〕 仮に、債権者の一連の行為が就業規則五八条各号に該当するとしても、行為の態様、程度に加え、債権者は、A常務やB課長からハートカードの件について事実の有無を尋ねられた際、「知らない。」、「覚えていない。」、「組合の人に聞いて下さい。」などと述べて自らの行為の責任を認めようとせず、謝罪や被害弁償をしようとしなかったのである。この点、債権者は、本件審尋期日において、謝罪をしなかった理由として、債務者から謝罪を要求されなかったからである旨述べている。しかしながら、債権者も社会人である以上、自ら犯した過ちに対しては率直に謝罪するべきであり、かつ、本件解雇時までに謝罪することは十分に可能だったのであり、債権者の右供述は、自らの責任を債務者に転嫁するものと言わざるを得ない。債権者は、本件審尋期日において、代理人弁護士を通じて謝罪及び被害弁償に応じる用意がある旨述べているが、遅きに失するというほかない。右に検討した債権者の一連の行為の態様、程度やハートカードの件発覚後の債権者の反省態度の欠如などといった情状を考慮すれば、たとえ債権者に対する本件解雇が懲戒処分としての意味合いを有するものであるとしても、債務者が懲戒処分としての出勤停止ではなく、普通解雇を選択したことが不相当なものであるとまでいうことはできない。 |