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ID番号 07028
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ドイツチェ・ルフトハンザ・アクチェンゲゼルシャフト事件
争点
事案概要  ドイツ連邦共和国法に準拠して設立され、同国に本店を置き、日本国内に営業所を有する航空会社に雇用され、客室乗務員として勤務していた日本人に対する付加手当の支給を中止したことの有効性につき、日本の裁判権に服させるのが相当であるが、準拠法についてはドイツ連邦共和国とする旨の黙示の合意があったとされた事例。
参照法条 法例7条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 1997年10月1日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 12180 
平成5年 (ワ) 19557 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集48巻5・6号457頁/タイムズ979号144頁/労働判例726号70頁/労経速報1651号3頁
審級関係
評釈論文 河野俊行・私法判例リマークス〔19〕<1999〔下〕>〔法律時報別冊〕153~157頁1999年7月/小俣勝治・労働判例743号6~13頁1998年10月15日/長谷川俊明・国際商事法務26巻11号1223頁1998年11月/陳一・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕272~273頁/塚原英治、則武透・労働法律旬報1426号25~27頁1998年2月25日/土田道夫・ジュリスト1162号150~153頁1999年9月1日/米津孝司・平成9年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1135〕210~21
判決理由 〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
 被告は、ドイツ法に準拠して設立され、ドイツに本店を有する会社であるが、日本における代表者を定め、東京都内に東京営業所を有するというのであるから、たとえ被告が外国に本店を有する外国法人であっても、被告をわが国の裁判権に服させるのが相当である。
 二 争点2(準拠法)について
 1 雇用契約の準拠法については、法例七条の規定に従いこれを定めるべきであるが、当事者間に明示の合意がない場合においても、当事者自治の原則を定めた同条一項に則り、契約の内容等具体的事情を総合的に考慮して当事者の黙示の意思を推定すべきである。
 2 そこで、本件各雇用契約の準拠法についての黙示の合意の成立について検討する。
 前記争いのない事実等1ないし3、証拠(甲第二〇ないし第二二、第四四、第四五号証、乙第六、第一八、第二二、第四一号証、証人Aの証言、原告X1本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば、本件各雇用契約においては、被告と各原告らとの間で、原告らの権利義務については、社団法人ハンブルグ労働法協会(AVH)とドイツ被用者労働組合(DAG)及び公共サービス輸送交通労働組合(OTV)との間で締結された被告の乗務員に関する労働協約に依拠することが合意されていること、右労働協約により、原告ら被告の乗務員の勤務時間、乗務時間、飛行時間、休憩時間、休日、給与の支給項目、手当、休暇、定年などの基本的な労働条件全般が定められ、また、右労働協約に基づく賃金協約により、給与の支給に関する乗務員の分類・等級、昇給等も定められていること、右労働協約は、労働協約自治の原則を定めるドイツ労働法に独特の規定に基づくものであり、その内容もドイツの労働法等の法規範に基づいていること、右労働協約の適用を受ける労働条件の交渉は、労働協約により援用されているドイツ経営組織法の規定に基づき、フランクフルト本社の従業員代表を通じてなされていること、本件の付加手当等の右労働協約の適用を受けない個別的な労働条件についても、原告らはフランクフルト本社の客室乗務員人事部と交渉してきたこと、原告らに対する具体的労務管理及び指揮命令は右客室乗務員人事部が行っており、フライトスケジュールの作成はミュンヘンの乗務員配置計画部門で行い、東京営業所はこれらの伝達等をするにとどまり、原告らに対する労務管理や指揮命令を行っていないこと、原告らの給与は雇用契約上ドイツマルクで合意され、ハンブルグにある被告の給与算定部でドイツマルクにより算定され、これにドイツの健康保険料及び年金保険料の各使用者負担分が付加されて支給総額が算定され、この中からドイツの所得税、年金保険料、衣服費を控除した後、残額がドイツマルクで東京営業所に一括して送金され、東京営業所において国外所得として所得税、住民税及び社会保険料が控除された後、手取額が日本円で原告らに送金されていること、原告らに対する募集及び面接試験は日本で行われたが、フランクフルト本社の客室乗務員人事部が東京ベースのエアホステスの募集を決定し、同人事部の担当者が来日して面接試験を行い、採用決定をしたもので、東京営業所のクルーコーディネーターは同人事部が提示した募集条件を充たす者を書類選考するなど補助的に関与したにすぎないこと、原告X2及び原告X3はドイツにおいて雇用契約書に署名しており、原告X1は日本において雇用契約書に署名しているが、署名した雇用契約書は東京営業所を通じて被告のフランクフルト本社客室乗務員人事部に返送しており、原告らの雇用契約はいずれも被告のフランクフルト本社の担当者との間で締結されていることが認められる。
 右に認定した諸事実を総合すれば、本件各雇用契約を締結した際、被告と各原告との間に本件各雇用契約の準拠法はドイツ法であるとの黙示の合意が成立していたものと推定することができる。