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ID番号 07031
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 京王帝都電鉄(高速道路線バス)事件
争点
事案概要  元高速バス運転手が、高速道路上でバイクに対して事故発生の危険性の高い幅寄せ等の走行を行ったこと等を理由として停職一日の懲戒処分を受け、退職後に、右懲戒処分の無効確認及び不法行為に基づく損害賠償を求めた事例(一部却下、一部棄却)。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法709条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 処分無効確認の訴え等
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1997年10月16日
裁判所名 東京地八王子支
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 1051 
裁判結果 一部却下、一部棄却
出典 労働判例727号41頁/労経速報1653号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-処分無効確認の訴え等〕
 確認の訴えの対象となるのは、原則として現在における一定の権利又は法律関係の存否であり、例外的に、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利または法律関係の基本となる法律関係を確認することが紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、過去の法律関係であっても、確認の利益があると認められる。そうすると、本件懲戒処分は過去の法律関係であるところ、原告は平成八年九月頃被告を退職しているのであるから、本件懲戒処分の有効、無効が、原・被告間の雇用契約に基づく法律関係の存否、効力等に影響を及ぼすことはなくなったというべきである。従って、本件懲戒処分の無効確認を求める訴えは、確認の利益が認められないものであるから、却下することとする。〔中略〕
 本件懲戒処分の理由となった事由、即ち、原告が右バイクに対し事故発生の危険性が高い危険な走行を行い、また、その後のバイク運転者への対応が不適切であったことは明らかであり、本件懲戒処分の事実認定に誤りはないものというべきである。したがって、誤った事実に基づき本件懲戒処分がなされた旨の原告の主張は失当である。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 被告の行為が不法行為を構成するかを検討する。
 (一) まず、前記認定のように、本件懲戒処分は誤った事実認定に基づいてなされたものとは認められない。
 (二) 次に、被告が原告に対して繰り返し事情聴取を行ったことについて検討する。
 前記認定の事実によれば、苦情者からの苦情内容が事実であれば、原告に対し何らかの懲戒処分がなされることが予想される重大な行為であったこと、そして、右苦情内容が真実であるとするならば、原告の高速バス運転手としての適格性について重大な疑問を抱かせる類の行為といわなければならなかったこと、一方で、タコグラフの記録などに照らすと、被告が認定した行為はほぼ真実である蓋然性が高いと予想されたこと、事情聴取の際の被告に対する原告の態度と組合に対するそれとは全く異なっており、被告としては原告の真意を図りかねるという状況にあったことが認められる。
 このような状況の下で、被告が原告に対して懲戒処分を行うかどうか、行うとしてもどの程度の懲戒処分を行うのか、今後原告に高速バス運転の業務を継続させるのか、路線バス運転に配置転換をするのかを決するにつき、前記認定程度の回数にわたって原告から事情聴取を行うことは相当な行為であったというべきである。
 また、原告は事情聴取の際に侮辱的言動を受けたと主張し、原告本人の供述は右主張に沿うものであるが、前記認定の経過に照らして容易に信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。また、仮に、原告主張の言動があったとしても、事情聴取に至る経緯に照らせば、これが損害賠償義務を生じさせるほどの違法な行為ということはできない。
 (三) 被告が原告を下車勤務に従事させたことについては、原告の行った本件行為が真実であるとするならば、原告の高速バス運転手としての適格性について重大な疑問を抱かせる類の行為といわなければならないのだから、原告の行ったとされる行為の真実性が明らかになるまでの間、高速バスの運転以外の業務につくように命じることはやむを得ないことで、被告の慣例では配置転換は毎月一六日付けで実施することから、原告の配置転換は一二月一六日に実施することになり、結果的に、処分がなされるまでの間、かなりの期間、下車勤務を命じ、その間、通常の運転業務ではない車庫整理等の業務をさせたこともまたやむを得ないというべきである。
 (四) 原告が複数の反省文を作成したことについては、下車勤務の期間は他に固有の業務はなかったことからその作業を行っていたと認められるものの、反省文や退職願の作成の際に被告から強制的に書かされたとの事実までは認めることはできない。
 (五) また、原告を路線バス運転手に配置転換することについては、原告が本件懲戒処分がなされたことに照らすと、違法とは言えない。
 3 以上から、被告の行為に不当あるいは違法と認められる点は認められず、原告の不法行為の主張は失当である。