全 情 報

ID番号 07035
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 千代田生命保険相互会社事件
争点
事案概要  就業規則により、営業職員が営業主任補の資格維持基準を満たせない場合には、嘱託に資格変更し、翌月末に解嘱することとしていることは、その実質は解雇に当たるとし、上司から命ぜられた公金横領者の捜索が一因で糖尿病にかかって成績不良となったこと、また解嘱の時点では職務遂行に顕著な支障があったとはいえないこと等により、右解雇(解嘱)は解雇権の濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1997年10月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 21627 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例748号145頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 一 本件労働契約の締結及び解雇について
 1 請求の原因1(本件労働契約の締結)の事実は当事者間に争いがない。
 また、同2(解雇)の事実については、被告が、原告に対し、平成八年三月二二日、営業個人職員就業規則四四条に基づき、同年四月一日をもって嘱託外務従業員に資格変更し、同年四月末日に解嘱とする旨通知したとの事実において争いがない(抗弁3及びこれに対する認否参照)。そして、(証拠略)によれば、被告の営業個人職員就業規則は、「会社が別に定める規定の基準に達しなかったとき」にはその職を解くことと定めているほか、本件労働契約において、外務職員から嘱託外務従業員への変更は、被告が職員に通知することと定められていることが認められる。
 以上の事実を総合して考えると、被告の営業個人職員就業規則四四条が、営業職員が営業主任補の資格維持基準も満たせない場合には、嘱託に資格変更し、翌月末に解嘱とすることとしているのは、その実質は、勤務成績の著しい不良の場合に、労働能力、適格性の欠如、喪失を理由に解雇予告をした上で解雇をするに等しいものということができるから、右の資格変更及び解嘱の通知は、本件労働契約についての解雇の意思表示に当たると解するのが相当である。〔中略〕
 公金横領者の捜索が業務命令に基づくものではなく、A所長からの依頼で行ったものであることは前記のとおりであり、このことに照らすと、公金横領者の捜索が原告の業務として遂行されたものではないことは原告の自認するところであるとはいえ、これが被告の業務と密接な関係のあることは否定できず、原告がそのことも一因となって糖尿病に罹患し、そのために十分な成績を上げることが難しくなったのは、被告にも責任がないとはいえない。このような事情に加え、被告が嘱託外務従業員への資格変更及び解嘱の通知をした時点では原告が営業個人職員としての職務を遂行することに顕著な支障がなくなっていたと考えられること(原告が平成八年五月ころには糖尿病の症状も軽決したことは既に述べたとおりであり、右資格変更及び解嘱の通知はこれより早いが、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右のとおり認めることができる。)を考えると、原告が被告に対し休職の申出をしなかったことを考慮しても、被告が、原告の成績が不良であり、営業主任補の資格維持基準すらも満たせない成績であることを理由に、営業個人職員就業規則四四条に基づき、同年四月一日をもって嘱託外務従業員に資格変更し、同年四月末日に解嘱としたことは、社会通念上相当とは認められず、解雇権の濫用であり、無効であると解するのが相当である。