全 情 報

ID番号 07043
事件名 賃金等請求本訴事件
いわゆる事件名 ユアーズ・ゼネラルサービス事件
争点
事案概要  年次有休休暇の時季指定に対する使用者の時季変更権は、時季変更権を行使するか否かを判断するに通常必要とされる合理的期間内に行使すべきであるところ、本件においては、休暇期間の始期から一三日後、休暇期間満了後二日後であり、時季変更権を遅滞なく行使したとはいえないとされた事例。
 退職金規定に基づいて計算された退職金額の支払が命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
労働基準法39条4項
労働基準法89条1項3の2号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1997年11月5日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 5841 
平成8年 (ワ) 1432 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例744号73頁/労経速報1654号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 (二) 年次有給休暇の時季指定権の行使は、原則として、使用者が時季変更権を行使するか否かを指定された時季(以下「休暇期間」という。)が到来するまでに判断するための時間的余裕をおいてするべきであり、使用者の時季変更権は、時季変更権を行使するか否かを判断するに通常必要とされる合理的期間内に、しかも休暇期間が到来する前に行使するべきである。なぜなら、労働者は年次有給休暇として時季指定した期間が請求どおり年休となるか否かをある程度の時間的余裕をもって知らせてもらえないと、年休とならなかった場合の所要の準備等ができないからである。
 右の趣旨に照らせば、労働者による年次有給休暇の時季指定権の行使が休暇期間の始期に極めて近接してなされたため、使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、客観的に時季変更権を行使しうる事由があり、かつ、その行使が遅滞なくされたものであれば、適法な時季変更権の行使があったものというべきである。
 (三) 前記三3記載のとおり、原告らは、被告に対し、平成七年三月二日、同月四日から同月一五日までを年次有給休暇と指定する旨の意思表示をしたことが当事者間に争いがないのであるから、本件は、労働者の年次有給休暇の時季指定権の行使が休暇期間の始期に極めて近接してされたため使用者が時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかった場合に当たるというべきである。そして、被告が、原告らに対し、平成七年三月一七日、右年次有給休暇の取得を認めない旨の意思表示をしたことが当事者間に争いがないのであるから、被告による右時季変更権の行使が適法、有効であるか否かが問題となるが、被告が時季変更権を行使したのが原告らによる年次有給休暇の時季指定権の行使から一五日後、休暇期間の始期から一三日後、休暇期間満了後二日後であるので、右事実によれば、被告が、原告らに対し、時季変更権を遅滞なく行使したということはできないから、右時季変更権の行使は効力を生じないというべきである。〔中略〕
 2 したがって、その余の点を判断するまでもなく、抗弁4は理由がない。
 六 本訴請求原因5(退職金)について
 1 本訴請求原因5(一)(退職金規程)について
 (一) 原告らは、各本人尋問において、被告と労働契約を締結する以前である平成三年八月一日、被告からA会社の退職金規程を被告の退職金規程であるとして交付された旨供述するが、これらの各供述は、被告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる(証拠略)(ただし、〈証拠略〉のうち、官署作成部分の成立は当事者間に争いがない。)によれば、被告には、平成三年八月一日当時、既に就業規則(以下「被告就業規則」という。)、給与規程、退職金規程(以下「被告退職金規程」という。)が存在していたことが認められること及び右各供述を否定する趣旨の被告代表者尋問の結果に照らし、たやすく信用することができず、他に本訴請求原因5(一)の事実を認めるに足りる証拠はない。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 就業規則は、これが合理的な内容を定めたものである限り、使用者と労働者との間の労働条件はその就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるということができ、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたか否かを問わず、当然にその適用を受けるものというべきであるところ、前項認定のとおり、被告には就業規則及び退職金規程が存在することが認められるので、以下、被告就業規則、被告退職金規程に従って、原告らの退職金請求権の有無及び金額を判断することとする。
 (二) 前掲(証拠略)(被告退職金規程)によれば、被告の従業員が退職する場合には、中小企業退職金共済事業団の退職金額表記載の掛金月額一万円に相当する退職金額を支給する旨(同二条一項)及び勤続年数は入社日から満一年を経過した翌日から起算し、退職の日までとする旨(同四条)規定されていることが認められる。
 3 本訴請求原因5(三)(入社及び退職の日)について
 (一) 本訴請求原因5(三)は当事者間に争いがない。
 (二) そして、被告の退職金規程四条によれば、退職金算定の基礎となる勤続年数は「入社日より満一年を経過した翌日から起算し、退職の日までとする」とされているのであるから、原告らの退職金を算定する根拠となる勤続年数は、平成四年八月六日から平成七年三月一六日の二年七か月(三一か月)であると認められる。