全 情 報

ID番号 07044
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 オークアソシエイツ事件
争点
事案概要  本件ボーナスの性質につき、被告の会計年度の客観的な経営状況により本件ボーナスの全部又は一部の支払が不可能な場合に、原告が減額又は不支給の決定を解除条件として、当該会計年度の原告個人の売上高が二〇〇〇万円に達した場合には当然発生する賃金としての性質を有するものとされた事例。
 競合避止義務違反を理由とするボーナスの不支給につき、原被告間の雇用関係の継続中に発生した事由ではないうえ、現実に競業行為を行ったとは認められず、報酬を受け取ってもいないなど、ボーナスを不支給とする程度に重大な債務不履行が存したものとはいえないとして、ボーナスの一部の支払が認容された事例。
参照法条 労働基準法24条
労働基準法89条1項2号
労働基準法415条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 債務の本旨にしたがった労務の提供
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1997年11月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 11086 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1656号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-債務の本旨にしたがった労務の提供〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 本件ボーナスの性質は、被告の会計年度の客観的な経営状況により本件ボーナスの全部又は一部の支払いが不可能な場合に、被告が減額又は不支給の決定をすることを解除条件として、当該会計年度の原告個人の売上高が二〇〇〇万円に達した場合には当然に発生する賃金(但し後記一3の場合あり)としての性質を有するものと認められる。
 3 ところで被告は、本件ボーナスが査定を前提としていると考えるべき理由のひとつとして、就業規則Eの8により原告が契約事項を遵守することが本件ボーナス支給の要件となっていることをあげているところ、就業規則Eの8には「ボーナスは、契約上の合意事項に従わない場合には、契約年の分は支払われない」との規定があるが(前提となる事実2)、右事項は客観的に定まる事項で被告の査定が問題となる事項ではないうえ、規則の文言上も必ずしも査定を予定して記載されているものではないことから、この点に関する被告の主張は理由がない。もっとも、右就業規則によれば、原告が「契約上の合意事項に従わない」場合にはボーナスの不支給事由となる旨の記載があるが、右規定はコンサルタント以外の従業員のボーナスについても適用される一般的な規定にすぎないうえ(前提となる事実2)、前記一2で認定判断したとおり、基本的に本件ボーナスの性質は経営状態が許さない場合を除いて売上高が一定額に達した場合には当然に発生する賃金としての性質を有するものであることから、右規定により本件ボーナスを不支給とすることができる場合は、原告の労働契約上の債務不履行が本件ボーナスを不支給とすることが相当と認められる程度に重大な場合に限られるものというべきである。〔中略〕
 2 証拠(略)によれば、原告は平成七年二月二四日に被告を退職した後にA会社という名称で人材開発の仕事を始めようと考えて在日米国商工会議所に登録したこと、原告は退職直前の仕事としてインガソルのために技術者を探していたが完了前に退職したので退職後も被告とは離れて右技術者を探す仕事を続けて平成七年五月はこの仕事を完了したこと、右仕事による報酬は原告ではなく被告が受け取ったこと、平成七年九月にインガソルからの連絡で技術者を成功報酬で探す仕事を依頼されたが成功せずに報酬は受け取っていないこと、平成七年四月一日から原告の夫が大韓民国で仕事をするようになったので同年一〇月には大韓民国へ住居を移しており、原告において右仕事を続けてはいないこと、以上の事実が認められる(なお、B会社については原告から積極的に連絡をとったと認めるに足りる証拠はない)。
 ところで、就業規則Eの8により本件ボーナスを不支給とすることができる場合は、前記一3で判断のとおり、原告の労働契約上の債務不履行が本件ボーナスを不支給とすることが相当と認められる程度に重大な場合に限られるものというべきであるところ、右認定の内容は原被告間の雇用関係の継続中に発生した事由ではないうえ、インガソルの件以外に原告が現実に競業行為を行ったと認めるに足りる証拠はなく、インガソルの件においても原告が積極的に働きかけて本来被告が受けるべき仕事を奪ったというわけでもなく、報酬を受け取ってもいないこと等に鑑みると、原告に本件ボーナスを不支給とする程度に重大な債務不履行が存したものとは認められない。したがって、競業避止義務違反を理由とする被告の主張は理由がない。