ID番号 | : | 07045 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | エキスパートスタッフ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労働者派遣業を営む会社が、派遣労働者との間で、契約期間途中で解約する代わりに新たな就職先を紹介する旨の合意を締結していたにもかかわらず、その債務を履行しなかったとして損害賠償を求められていた事例(棄却)。 |
参照法条 | : | 民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 |
裁判年月日 | : | 1997年11月11日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 5520 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例729号49頁/労経速報1664号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 武井寛・法律時報71巻2号91~94頁1999年2月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 原告が東京簡易裁判所に提起した右訴訟は、被告が原告の就労を事前に拒否する意思を明確にしたため、本件労働契約に基づく原告の債務(労務を遂行すること)の履行が、債権者である被告の責めに帰すべき事由により不能となったことを理由とする民法五三六条二項に基づく請求を対象とするものであることが明らかである。これに対し、本件訴訟は、本件合意をもって本件労働契約を合意解約し、この合意において被告が原告に対し派遣就業の残余の期間に対応する賃金相当額の給付に代えて新たに就職先を紹介することを約したが、被告がこれを履行しなかったことを理由とする債務不履行による損害賠償請求を対象とするものである。このように、原告が東京簡易裁判所に提起した前記訴訟と本件訴訟とは、前者が民法五三六条二項に基づく請求(本件労働契約に基づく賃金請求)を対象とし、後者が本件合意に基づく債務の不履行を理由とする損害賠償請求を対象とするものであって、その対象が異なるから、本件訴訟は、前記訴訟の訴訟物と同一の訴訟物について訴えを提起したものとはいえない。 よって、本件訴訟の判決について前記訴訟の判決の既判力が働く旨の被告の主張は、これを採用することができない。 二 本件合意について 1 請求の原因1の事実、同2(一)の事実、同2(二)の事実のうち、被告が、原告に対し、平成八年八月の一箇月分についてだけ賃金の一〇〇パーセント相当額を補償し、同年九月一日から同年一一月三〇日までの間は、新たに就職先を紹介することで本件合意の成立に至ったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。 2 右争いのない事実に、(証拠・人証略)の結果を併せて考えれば、原告は、本件労働契約に基づき、株式会社Aで派遣労働者として職務を遂行していたこと、ところが、派遣開始後一箇月もたたないうちに、株式会社Aから被告代表取締役Bに対し、原告の勤務態度につき苦情の申入れがあり、別の人に代えてほしいとの申入れがされたこと、そこで、Bは、原告に派遣社員を辞めてもらおうと考えたが、円滑に話を進めるために、まず、原告に就職先を紹介しようと考え、同年七月中旬、原告に会って派遣社員をやめて就職するように勧め、株式会社C宛の紹介状を書いて原告に渡したり、同年七月下旬には原告に就職先として株式会社Dを紹介したりしたこと、ところが、同年七月三〇日、株式会社Aから、原告を派遣しないでほしい、別の人に代えてほしいとの強い要望があったため、Bは、就職先の決定を待たずに原告を解雇する方針を固め、即日、原告に対し、同年七月三一日をもって派遣を打ち切る旨通告したこと、原告は、納得がいかず、理由の説明を求めたが、Bは理由を告げなかったこと、原告は本件労働契約が途中で解約されることによる残余の期間相当の原告の生活の保障を求めたのに対し、Bは当初八月一箇月分の六〇パーセントだけを保障する考えであったが、交渉の結果、被告が、原告に対し、同年八月の一箇月分についてだけ賃金の一〇〇パーセント相当額を保障し、同年九月一日から同年一一月三〇日までの間については賃金相当額の保障はしないが、右の期間における原告の生活を保障する趣旨で新たに就職先を紹介することとなり、本件合意の成立に至ったこと、以上の事実が認められ、原告本人及び被告代表者Bの各供述中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてたやすく採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。 右認定事実に基づいて考えると、被告は、本件合意において、原告に対し、本件労働契約の残余の期間である同年九月一日から同年一一月三〇日までの間における原告の生活を保障する趣旨で新たに就職先を紹介することを約したものであり、被告は右義務の履行として、少なくとも右の期間に対応する期間は原告が就労することができる労働契約であり、本件労働契約における賃金その他の労働条件と同程度ないしそれ以上の労働条件を内容とする労働契約を締結することができる相当な見込のある新たな就職先を紹介することを要し、かつ、それをもって足りるものと解するのが相当である。 |