ID番号 | : | 07050 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 横浜セクシュアルハラスメント(建設会社)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 出向元社員による出向先女性社員に対するセクシュアルハラスメントを理由とする損害賠償請求につき、接触行為の部位、接触行為の外形、不快感の程度等を総合的に考慮して社会通念上許容される限度を越えるものと認められるときは、相手方に対する性的自由又は人格権の侵害に当たり違法になるとし、一部の行為を除き、行為者による不法行為の成立が認められた事例。 出向元社員による出向先女性社員に対するセクシュアルハラスメントを理由とする損害賠償責任に関する使用者責任について、出向元会社は出向社員の指揮監督関係がなく使用者責任を負わないが、出向先会社は、使用者責任を負うとされた事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法710条 民法715条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント 配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟 |
裁判年月日 | : | 1997年11月20日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ネ) 1474 |
裁判結果 | : | 認容、一部棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例728号12頁/労経速報1661号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 渡辺智子・労働法律旬報1425号28~32頁1998年2月10日/名古道功・民商法雑誌119巻4・5号315~327頁1999年1月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕 被控訴人Y1の控訴人に対する行為が不法行為を構成するかどうかについて検討する。 およそ、本件のように、男性たる上司が部下の女性(相手方)に対してその望まない身体的な接触行為を行った場合において、当該行為により直ちに相手方の性的自由ないし人格権が侵害されるものとは即断し得ないが、接触行為の対象となった相手方の身体の部位、接触の態様、程度(反復性、継続性を含む)等の接触行為の外形、接触行為の目的、相手方に与えた不快感の程度、行為の場所・時刻(他人のいないような場所・時刻かなど)、勤務中の行為か否か、行為者と相手方との職務上の地位・関係等の諸事情を総合的に考慮して、当該行為が相手方に対する性的意味を有する身体的な接触行為であって、社会通念上許容される限度を超えるものであると認められるときは、相手方の性的自由又は人格権に対する侵害に当たり、違法性を有すると解すべきである。〔中略〕 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕 2 右認定事実並びに前記第二及び前記一の各判示事実を前提として、被控訴人Y2会社の使用者責任の成否(争点2)について検討すると、被控訴人Y1は、被控訴人Y2会社への在籍出向を命じられ、機電事業部長兼横浜営業所長として、被控訴人Y2会社の事業を執行していた者であり、事業の執行に当たっては、被控訴人Y2会社の指揮監督を受けていたというべきであるから、民法七一五条の適用上は、被控訴人Y2会社の被用者に当たるものと解されるところ、前記一の4のとおりの被控訴人Y1の控訴人に対する不法行為(第四の事実に係る行為は含まれない)は、いずれも、事務所内において、営業所長である被控訴人Y1によりその部下である控訴人に対し、勤務時間内に行われ、又は開始された行為であり、控訴人の上司としての地位を利用して行われたものというべきであるから、被控訴人Y1の右不法行為は、被控訴人Y2会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為というべきである。 被控訴人Y2会社は、被控訴人Y1の行為は個別的な行為で職務と何ら関係なく行われたものである旨主張するけれども、右に判示したような被控訴人Y1の行為の外形から見て、事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為と判断すべきものである以上、そのような行為に出た動機が被控訴人Y1の個人的な満足のためのものであったとしても、そのことは右認定を左右するものではない。 したがって、前記一の4において判示したとおり、控訴人に対する不法行為を構成する被控訴人Y1の前示行為は、いずれも同人が被控訴人Y2会社の事業の執行につき行ったものであるから、被控訴人Y2会社は、民法七一五条に基づき、被控訴人Y1の使用者として、損害賠償責任を負うというべきである。 3 次に、被控訴人Y3会社建設の使用者責任の成否(争点3)について検討する。 民法七一五条にいう使用関係の存否については、当該事業について使用者と被用者との間に実質上の指揮監督関係が存在するか否かを考慮して判断すべきものであるところ、前記2において判示したとおり、被控訴人Y1は被控訴人Y2会社の事業の執行については被控訴人Y2会社の指揮監督を受けていたものであり、前記1の認定事実によると、被控訴人Y1は、被控訴人Y3会社の社員であって、被控訴人Y3会社から給与の支給を受けていたものの、被控訴人Y3会社からは出向期間の定めなく被控訴人Y2会社に出向し、その間休職を命ぜられており、被控訴人Y3会社から日常の業務の遂行について指示を受けることはなく、被控訴人Y2会社が被控訴人Y1に対する業務命令権及び配転命令権を有していたということができる。さらに、被控訴人Y2会社は、被控訴人Y3会社の一〇〇パーセント出資の子会社であるとはいえ、独立採算制が採られ、被控訴人Y3会社からの出向社員の給与に相当する金額は技術指導料の名目で被控訴人Y3会社に支払われていて結局被控訴人Y2会社の負担に帰しており、その売上げに占める被控訴人Y3会社との取引の割合や全社員中の出向社員の比率からみても、被控訴人Y3会社とは独立した別個の企業として経営されていたものというべきであって、被控訴人Y2会社の事業が被控訴人Y3会社の事業と実質的に同一のものあるいはその一部門に属するものであったとみることもできないし、特に、被控訴人Y1が携わっていたA(編注・商品名)の製造販売は、被控訴人乙2独自の業務として行われていたものである。 右のような事情の下では、被控訴人Y3会社が被控訴人Y1に対する実質上の指揮監督関係を有していたと認めることはできない。 |