全 情 報

ID番号 07057
事件名 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 松藤商事事件
争点
事案概要  タンクローリー車の乗務員がカラーアスファルトの運転業務に従事し、その作業中にアスファルトから気化したガスによる引火、爆発によって負傷した事故につき、使用者を相手として安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求した事例(請求一部認容)。
参照法条 民法415条
民法722条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1997年12月9日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ネ) 646 
平成8年 (ネ) 1111 
裁判結果 一部変更(確定)
出典 時報1640号133頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 一般に、使用者は、その雇用する労働者の就業中の安全について配慮すべき雇用契約上の注意義務を負っているところ、以上に説示のカラーアスファルトの性状、その配送作業の内容、タンクローリーの構造等の事実に照らすと、本件において、控訴人は、カラーアスファルトの配送作業の過程で火気の使用が不可欠である一方で、これが可燃物であって、加熱することによりガスが生じることの知見を有していたのであるから、その引火・爆発の可能性を予見した上、火気の使用を含めた作業手順を策定し、その周知徹底を図る等の方法により、従業員の安全を確保すべき注意義務があったといわなければならない。
 (二) しかるに、控訴人は、一般的なアスファルトの配送作業の作業手順の規定を定め、従業員に対する安全面を含めた研修も実施していたが、その内容は、いずれも火気を使用する場合の危険性に配慮したものとはいうことができず、また、日常の業務においても、火気の管理を徹底せず、タンク上部での火気の使用や、車庫内での加温装置の動作、喫煙等を黙認していたものであるから、控訴人に求められる前記の安全配慮義務を尽くしていたとは到底認めることができない。〔中略〕
 労働者の就業中の安全については、その責任を一方的に使用者に負わせることは相当ではなく、労働者自身にも、自らの作業を管理し、安全を確保すべき注意義務があるといわなければならない。これを被控訴人についてみるに、前記認定事実によれば、被控訴人は、タンクローリーに乗務し、事業所外に出てカラーアスファルトを配送した後、ホース等に付着したアスファルトをタンクに戻すまでの業務に従事し、その間、必ずしも使用者の直接の指揮監督下になく、自らの状況判断に従って行動すべき部分もあったといえるから、被控訴人においても、作業上の危険を予知し、それを避けるべく行動すべき注意義務があったといわなければならない。また、被控訴人が危険物取扱者の免状を有していたことは、右の注意義務を裏付けるものであるというべきである。そうすると、被控訴人が、カラーアスファルトから発生する臭気のあるガスの存在を知り、また、控訴人の車庫内に火気厳禁の札があることを知りながら、タンクの蓋を開けて、タンク上で漫然とバーナーの火器を使用したものであって、そこに、労働者自らが負うべき安全上の注意義務に反した過失があるといわざるを得ない。
 (三) 右過失を、前記のとおりの被控訴人の過失と対比すると、その割合は被控訴人について三割と認めることが相当である。