ID番号 | : | 07065 |
事件名 | : | 労災保険不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪淡路交通・西宮労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 大型観光バスの運転中に発症した運転手の高血圧性脳出血につき、運転手が過重な業務によるストレスと疲労の蓄積によるものであるとして、療養補償の不支給処分の取消しを求めて争った事例(請求を認容した原判決を維持、監督署長の控訴棄却)。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条の8第2項 労働者災害補償保険法13条 労働者災害補償保険法14条 労働者災害補償保険法施行規則別表1の2第9号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1997年12月25日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (行コ) 48 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例743号72頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 中野妙子・ジュリスト1165号126~129頁1999年10月15日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 労災保険制度が使用者の過失の有無を問わずに被災者の損失を填補する制度であることに鑑みれば、「業務上」の疾病といえるためには、当該疾病が被災者の従事していた業務に内在ないし随伴する危険性が発現したものと認められる必要がある。したがって、被災労働者の疾病が業務上の疾病といえるためには、業務と当該疾病の発症との間に条件関係があることを前提に、労災保険制度の趣旨等に照らして、両者の間にそのような補償を行うことを相当とする関係、いわゆる相当因果関係があることが必要であると解される。 2 そして、右相当因果関係が認められるためには、業務が当該疾病の唯一の条件である必要はないが、当該疾病が業務に内在する危険性の発現と認められる関係にあることが必要であるから、当該業務が被災労働者の基礎疾病等の他の要因と比較して相対的に有力な原因として作用し、その結果当該疾病を発症したことが必要であると解すべきである。これを基礎疾病との関係でいえば、過重な業務の遂行が、右基礎疾病を自然的経過を超えて増悪させた結果、より重篤な疾病を発症させたと認められる関係が必要である。 3 ところで、今日何らかの基礎疾病を抱えながら業務に従事する者は多いことを考えると、基礎疾病をコントロールしながら日常の業務に従事している者が、通常より過重な業務を行ったために疾病を発症した場合、労災補償制度の保護を受けるに値するものであるから、当該業務の過重性の判断にあたっては、何らの基礎疾病を有しない健常人ではなく、当該労働者が従事していた通常の業務に耐え得る程度の基礎疾病を有する者を基準とすべきである。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 Aの勤務は不規則な勤務であり、一度たまった疲労を回復しにくい業務であること、右にいう中休時間といえども、完全に乗客から解放されるわけではないこと、バス運転業務は前記のとおり、多数の乗客の生命を預かるものであるという点で、その精神的緊張を持続させなければならず、この点による精神的疲労を無視することはできないこと、Aはリーダー格の運転手であることが多く、また、スペアー運転手でもあることからくる心理的負担も大きかったと認められ、十分に休日を取れていないことなどの事情に照らすと、単に労働時間の長短でもって、Aの疲労度について判断することはできない。〔中略〕 Aの本件疾病は、基礎疾病である高血圧症がその一因となっていることが否定できないとしても、むしろ、Aの担当業務が過重な負荷となり、右業務による急激な血圧上昇の反復により、基礎疾病が自然的経過を超えて増悪させて発症を早められ、発症に至ったものというべきである。 したがって、本件疾病発症については、業務が相対的に有力な原因となっているとみられ、Aの業務と本件疾病との間に相当因果関係を認めることができる。 |